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学習会の要旨

◎学習会の要旨

2018年6月会報新正先生3

日 時:2018年5月19日(土)13:30~15:30 
場 所:東京経済大学 2号館 B301教室
テーマ:「日本列島の骨組みを作った変動と巨大噴火」 
講 師:新正 裕尚 先生(東京経済大学経営学部教授)                               

出席者:236名(会員:男性168名、女性60名、
         非会員:男性4名、女性4名)                                  

【講演要旨】 

1.はじめに
 
昨年講演依頼を受けテーマを決めたが、このテーマだと授業15回分になってしまう。もっと絞った
テーマにしておけば良かった。今日は次のテーマに絞って話をしたい。 

(1) 日本列島の成り立ち―超かいつまんで:東アジア東縁でのプレート沈み込み
(2) 日本列島の骨組みを作った変動:東アジアからの分離
(3) 日本列島で起こった破局的噴火
としますが、その前に予告編として

2.予告編

主に現実に起こっていること―地震とか火山噴火など―を観測する地球物理学と、過去の地学現象を復元する地質学があります。今日お話しする地質学は過去の地学現象の復元には大きな不確実性があること、即ち

①物理化学的に実証可能なもの(日本のようなプレートの沈み込む場所で発生するマグマは海のプレートの成分―Be(ベリリウム)10―が入っている。) 
②実証が容易でないもの(白亜紀末⦅6600万年前⦆の恐竜絶滅は隕石の衝突で引き起こされた)
があります。

例えば②についてはイタリア中部の地層からIr(イリジウム)濃度異常が見つかったので地球外天体から来たとの分析により巨大隕石が落下して恐竜が絶滅したとの論文が1980年に発表され、その後メキシコでのクレーター発見により隕石落下は確実になった。2013年頃隕石落下による絶滅説の証拠ををまとめた大きい論文が出たが、その後インドのデカン高原の大噴火を研究しているグループが反論していまだ決着がついていません。

地質学では、ある現象が起こったという発見があってもそれは状況証拠に過ぎないので、別の新しい発見がなされると覆ってしまうこともあり、また再現実験が出来ないということにより不確実なものが少なくないことを理解しておいていただきたい。そこが地質学の面倒なところでもあり、面白いところでもあります。

3.日本列島の成り立ち

超かいつまんで言うと、日本列島は何億年もの間に東アジアの東縁に海のプレート(以下Pと記す)が沈み込んで出来たということになります。それでは簡単すぎるので、今の日本列島のプレートの状況を説明します。日本は西日本側がユーラシアP、東日本側が北米Pに乗っています。
2018年6月会報日本付近プレート

そして西日本側にはフィリピン海Pが、東日本側には太平洋Pが沈み込んでおり、更に伊豆・小笠原辺りでフィリピン海Pの下に太平洋Pが沈み込んでいます。従って、我々の足下は北米Pの上に立っていてその下にフィリピン海Pが潜り込み、両者の下に太平洋Pが潜り込んでいるという三枚重ねになっています。そのため東京・茨城辺りでプレートが擦り合って、大小は別として地震が多く発生するのです。

次に日本の地質体について説明します。日本は東日本と西日本では違うのですが、「○○帯(ベルト)」といったいろいろな時代の地質体から形成されています。東日本は新しい時代の火山が乗っていたりして複雑ですが、西日本はその帯状配列がよく分かります。北海道はまた別です。

このような地質体を構成する古い石で5億年前のものが日本の何カ所かから出てきていますので、5億年前以降から東アジアの縁でプレートが潜り込んで陸地が成長し複数の「○○帯(ベルト)」が出来て日本列島が形成された、と考えられます。日本列島形成のキーワードの一つは「5億年前」に日本列島の基が出来たということです。

陸地が成長するのは「付加」と言うメカニズムによります。「付加」とはプレートが移動したり、潜り込んだりを何千万年も繰り返し、海洋プレートの上にたまった物質と大陸から流れてきた泥砂が混ざって出来た物が大陸の縁にくっつくことを言い、くっついた物が「付加体」です。「付加体」が大陸にくっつくことにより大陸が増えて(成長)いきます。付加で出来たものを「○○帯(ベルト)」と言い、1億何千万年前から数千万年前に出来たベルトが日本には沢山あります。

例えば、四万十帯は7000〜8000万年から1千何百万年前に出来たと考えられています。また、陸側のベルトは古く、海側のベルトは新しいのが基本的な原則です。つまり、日本列島は付加体により成長して出来たと言えます。ただ、陸地は付加体だけで成長したのではなく、補強する働きがありました。それはプレートが沈み込んで発生したマグマが付加体を貫いて地殻を作り陸地を形成しているということです。

<閑話休題>

地質が何時の年代のものであるかを知ることは最も大切なことでありますが、昔は地層累重(ちそうるいじゅう)の法則など相対的な新旧関係の比較で決められていました。しかしそれでは下の地層が古く上の地層が新しいということしか分かりません。そこで地層の年代を決める方法として放射年代測定が使われるようになりました。

放射性元素が壊変して安定な元素に変わることを利用して鉱物の形成年代を求めるという方法です。元の元素を親元素、壊れて出来る元素を娘元素と言い、親元素と娘元素の量比(鉱物中の成分を定量的に表したもの)を量って鉱物の形成年代を求めるという方法です。この場合に何を量るかが重要で、信頼度が高い方法として親がウラン、娘が鉛を使うウラン・鉛法が100年前から使われていました。

しかし、日本では戦後核燃料物質にあたるウランなどの標準試薬の取り扱いが困難だったので広まりませんでした。その後テクノロジーの進歩でそのような試薬を使わなくても鉱物(岩石)に入っている小さい小さい結晶の一粒一粒をビームで分析することで形成年代を求めることが出来るようになりました。この装置は1980年代後半にオーストラリア国立大で開発されたSHRIMPと言う装置で2~3億円と高額なため日本には4台しかありません。ところが、2000年代になって簡便なレーザーアブレーションICP分析質量装置が広まり、価格も数千万円台なので各大学に普及しつつあります。現在はいろいろな地域の鉱物(岩石)を再検討することが行われています。

年代測定の進歩の応用例として中央構造線についてどのようなことが分かったか紹介します。中央構造線は中部地方・紀伊半島・四国・九州にまたがっており、20~30年前までは巨大な横ずれした断層であるという認識でありましたが、今は横ずれしているのは四国から紀伊半島までで、その他の横ずれははっきりしないという認識に変化してきています。
                         2018年6月会報中央構造線2

中央構造線は地質帯と対応しており、中央構造線を挟んで比較的浅くて高温の領家帯と比較的深くて低温の三波川帯が対峙していますが、このように条件の違うものが接触しているのは横ずれ以外に別の要素があったはずです。その要素は何か?それは横ずれが起こるより前の時代に領家帯が三波川帯の上に乗り上げると共に列島が100 km程度短縮して「古」中央構造線が出来ていたということです。なお、乗り上げた部分はその後の浸食などにより無くなっています。

この乗り上げる形の断層のことを衝上断層と言いますが、これは2000万年前から1500万年前に起こったと言われています。日本列島形成のキーワードのもう一つが「2000万年~1500万年前」ということです。衝上断層の例としては愛媛県松山市南部にある砥部衝上断層があるが、これは最近のウラン・鉛法による見直しで1500万年前から1400万年前に出来たものと測定されています。

4.日本列島の骨組みを作った変動:東アジアからの分離

日本列島は2000万年前~1500万年前に大陸から分離しました。それが分かるのは地磁気によってです。岩石は昔の地磁気―古地磁気―を覚えており、火山噴火で溶岩が流れて地層に溜まった時も岩石に当時の地磁気が残っているのです。これを残留磁気と言います。
2018年6月会報日本列島の形成

日本列島のいろいろなところの岩石を測定すると、東日本の古地磁気は西にずれており、西日本の古地磁気は東にずれています。この現象は元々北を向いていた残留磁気が東日本は反時計回り、西日本は時計回りに回転してアジア大陸から分離したことによりそれぞれ方向が変わったことを示しています。また、その間に日本海が形成されたと言われています。

しかし、離れ方については回転ではなく平行移動だという説も有りますが、多くの証拠の内どの証拠を重視するかにより説が分かれるのです。また、離れた時期については2000万年前から離れはじめ1600万年前にはほぼ原位置に来たということになっています。しかし、現在は新しい方法でいろいろな岩石の時代を決めているところですから、時期はより精密に決めることができると考えられます。

また、オサムシ等の生物からも遺伝子系列が東日本と西日本で異なり、遺伝子変化のスピードのモデルを比較すると東と西が分岐した時期が推定でき、その時期が大陸から分離した時期と一致しています。

次に、大陸が分離する頃起こった特徴的なことを説明します。それは太平洋沿岸(九州周辺、熊野など)に現在では存在しないカルデラ火山が多数形成されていたということです。

現に、熊野大噴火の灰は房総半島鴨川の地層に数十cmの厚さで確認されています。これは1900万年前と1700万年前の復元図を比較すると、陸地が回転して離れる時に対面していたフィリピン海プレートのなかでも特に普通より高温の四国海盆がぶつかって、通常では出来ないマグマが生成されて大規模な火成活動が起こったためと考えられています。現在西日本にある美しい景観(熊野、室戸岬、足摺岬など)はその時に出来たものです。

5.日本列島で起こった破局的噴火

これからは現在の話になります。火山の破局的噴火についてです。噴火規模の目安は火山爆発度指数のVEI(Volcanic Explosivity Index)で表され、いわば噴火のマグニチュードのようなものです。具体的には①VEI 8:1000㎦以上を噴出②VEI 7:100~1000㎦を噴出③VEI 6:10~100㎦を噴出というようなアバウトな指標です。
                              2018年6月会報日本のカルデラ

例えば、富士山の総体積は500㎦と言われているので、VEI 8は富士山の倍ぐらいのものを一時に噴出するとんでもなく大きなものであると考えてください。通常はVEI 2ないしVEI 3位なのでVEI 5になれば大事件です。近年の世界中で一番大きな噴火はインドネシアのトバ火山で2800㎦を噴出し、桁違いのカルデラが出来ました。

日本ではVEI 8相当の噴火は知られていませんが、12〜13万年前以降でVEI 7クラスの噴火は7火山で9回ありました。近場では箱根の噴火規模は一つ一つでは富士山の噴火規模より大きく一番大きいのは6万年前の噴火で火山灰は小田原周辺で2~3m、東京でも10㎝位降ったと言われています。この箱根の灰は東経大図書館下の7~8m深さのローム層に10cm弱の厚さで見つかっています。日本でVEI 7クラスのものは九州に多く、いちばん新しいのは7300年前に起こった鬼界―アカホヤ噴火で、火砕流は海を挟んで南九州まで飛んで、火山灰は本州の広い範囲に落ちていました。総噴出量は170㎦程度と推定されており、九州南部縄文文化は壊滅しました。

それでは今150㎦の噴火が起こった場合の最悪のケースを考えることにします。過去の約9万年前に起こった日本最大級のカルデラ噴火の阿蘇 4噴火(600㎦の噴火で、火砕流は九州全土と一部山口県まで飛んで、火山灰は日本全国に15cm位降った)から推定すると、九州の中部で起こったとして700万人が火砕流に巻き込まれ、1億2千万人が10cmの火山灰に埋もれて日本全土が喪失するという説があります。
                 2018年6月会報阿蘇山カルデラ

現実に日本で破局的噴火が起こるとしたら①九州・東北北部~北海道で発生する②日本では歴史的(紙の記録が残る範囲)にVEI 7クラスのものは記録されていない③世界的に見ても大都会ではVEI 7クラスのものの経験はない、ことから考えると発生確率は低いが、起こったら巨大地震よりもインパクトは大きいと考えられます。

ただし、発生確率はほぼ1万年に1回で、100年確率で 1%という話です。従って、規模が大きすぎて個人的に何が出来るかは難しいですが、社会的インパクトの大きい問題、例えば伊方原発の阿蘇噴火の影響については何時起こるかも知れないことを前提として対応しなければならないと考えます。
個別の事柄について興味のある方は参考文献にあげた書物で更に掘り下げてみて下さい。
2018年6月会報新正先生風景1

【質疑応答】

Q1.最近自然現象が余りにも極端であるが、その原因は何か?
A1.気象現象は私の専門外であるが、地球温暖化が影響している可能性がある。また、火山の噴火・地震の活発化については東日本大震災の影響であるか否かについて見解が分かれており、また、現在は活発期か否かについても見解が分かれている。私は特に活発期ではなく、普通に噴火も地震もそれなりに起こるものと考えている。

Q2. 国分寺に住んでいると立川断層が気になっている。先生の見解をお願いしたい。
A2. 立川断層は全長30~40kmある、横ずれに若干の縦ずれのある活断層でM7.3~7.4の地震の可能性が有り、1回/1万年程度の確率である、というのが従来の見解でした。しかし、最近東大地震研などの調査の結果、従来考えられていた断層の規模より小さいという説が出てきているようです。ただし現在まで公式の活断層の評価に変化はありません。

Q3.1500万年前に東西日本がずれた境目がフォッサマグナか?
A3. 観音開きに開いていったところがフォッサマグナと言われているところに相当し、西側の糸魚川・
静岡線ははっきりとした活断層があるが東側はよく分からない。北側の新潟辺りは沈降がはっきりしてい
るので1500万年前の変動が関連しているのは間違いない。しかし、南側は日本が回転してきたところに
北上してきた伊豆・小笠原諸島に属する火山島がぶつかってフォッサマグナを形成しているので北側と地
質的には違うが、ともあれ1500万年前頃の変動と関連したと思われます。 (文責:芦川 洋)                


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