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学習会の要旨

6月会報孫崎先生5

◎5月21日(土)学習会の要旨


日 時:2016年5月21日(土)13:30~15:30 
場 所:東京経済大学 2号館 B301教室
テーマ:「日本を取巻く国際環境の行方」 
講 師:孫崎 享 先生(外交評論家)                               
出席者:236名(会員:男性156名、女性60名、           
         非会員:男性13名、女性7名)                                  

【講演要旨】 


報道の自由と原発・TPPの問題点


来週、日本でG7サミットが開催されるが、経済のみならず民主主義の先進国たることを求められるリーダーとして、今の日本は適格だろうか? 民主主義国では、言論、表現、報道などの自由が必要だが、報道の自由度で日本は世界の72番目(数年前は12番目)。秘密保護法の成立、テレビ・キャスターの交代などあり、原発や集団的自衛権などで、自由な発言が封殺されてきている。
原発は、事前に地盤の基準地震動(ガル)を測定するが、熊本地震が1500、新潟中越地震は2300に対して、川内原発や伊方原発は500~600しかない。こう言う大事なことが殆ど議論されていない。

TPPもISD条項(投資国家紛争処理条項)が問題。これは投資家の投資が相手国の責任で損害を被った場合、その損害を相手国に請求できる条項で、米・加・メキシコの北米自由貿易協定でも、米国企業の産業廃棄物から有毒物質が発生し、メキシコの地方公共団体がその操業を差し止めたところ、損害賠償を払わされた。ウルグアイ政府はフィリップ・モーリス社に煙草規制に関する賠償金を支払い、エジプトは最低賃銀を引き上げた法律で米企業の賠償請求を受けた。これがTPPの本質である。2013年のテレビ放送で、与党の某議員が「NHKは何故TPPが国の主権を侵害するなどと発言する孫崎氏を出演させるのか」と非難、その後NHKへの出番はなくなったが、これ以後メデイアでは殆どISD条項が論じられなくなった。

全体主義へ逆戻りの懸念


 ジョージ・オーウェルの「1984年」はソ連共産党を批判した優れた政治小説だが、「2+2=4は必ずしも正しくなく、権力者が5と言えば5、3と言えば3と言える人間が全体主義の求める人材だ」と言うくだりがある。日本はこんな状態になりつつあるのではないか?
 野坂昭如氏は昨年12月7日のTBSラジオに、「、、、、明日は12月8日、昭和16年のこの日、日本は行き詰まりを打破しようと戦争に突っ走った。、、、、戦後の日本は平和国家だというが、たった1日で平和国家に生まれ変わったのだから、同じくたった1日でその平和とやらを守るという名目で軍事国家、つまり戦争をする事にだってなりかねない。、、、昭和16年の12月8日を知る人がごくわずかになった今、また、ヒョイとあの時代に戻っていまいそうな気がしてならない。」と手紙を出し、その翌々日亡くなった。
6月会報横須賀軍港クルーズ1

画家の堀文子さんは、昨年10月NHKで、「、、、今の日本は危険な瀬戸際にいるように見えます。国家権力に反抗するには、相当な勇気と智慧が要ります。下手をすると牢獄に繋がれる。何をするかわかりませんよ。国家が野心を持つと。、、、、戦争の記憶を忘れてしまって、今の政府がもう一度勢いのある日本を取り戻したくなっている気がして・・・非常に危険だと思っています」と話された。2013年12月23日、天皇陛下は80歳の誕生日を迎えて、「戦後、連合国の占領下にあった日本は、平和と民主主義を守るべき大切なものとして憲法を作り、様々な改革を行って今日の日本を築いてきました。、、、、」と話されたが、これを知っている人は殆どいない。
実はこの部分はNHKが事の重要性に気付いて、あえて削除し放送しなかった。


安全保障の在り方


 世界広しと言えども、外国に守って貰っている国がどれだけあるか? 首都の上空を自由に使えず、それをおかしいと言わない国が幾つあるか? ウズベキスタンという国にいたことがある。海に囲まれていない国々に囲まれている国はここしかないが、最初に独立した途端にロシヤ軍に立ち退きを要求した。イラクも戦争が終わった途端に米軍を立ち退かせた。

 外国軍がいなければ、侵略されるだろうか? 2010年頃から考えてみて、他国を侵略した国はない。民族紛争は沢山あるが、領土侵略は最早やあり得ない。国連憲章は国の主権を認め、武力侵略は認めない。国連の影響力は弱いと言うが、今でも9月になると大国の首脳が皆国連を訪れて演説をしている。侵略を認めないとの原則は世界の殆どの国の指導者に支持されている。
第七艦隊の守備範囲は日本だけでなく、東南アジア、インドから遠く中東まで及んでおり、日本に駐留する米軍は日本防衛のためではなく、米国の世界戦略上必要で置かれているのである。
                                    6月会報沖縄問題
集団的自衛権の本質

集団的自衛権の論議で安倍さんは最初、海外で日本人の老人や子供が危険に瀕した時に、それを載せてくれる米艦を自衛隊が助けるのは当然だと言ったが、国務省のテキストは、「米軍の責務は米国人の救助であり、米国籍を持たぬ者はたとえ伴侶でも援助を期待しないで行動せよ」と明記している。次はイランで問題が発生したら石油確保の為にペルシャ湾への出動が必要と言ったが、イランは最早や西側と和解してこの理由にも必然性がない。

然るに何故憲法違反までして集団的自衛権を認める必要があるのか? 最後の理由付けは、北朝鮮や中国の危険云々だが、若し日本が北朝鮮の体制は好ましくはないが、軍事攻撃はしないと宣言すれば、北朝鮮の攻撃を恐れる必要はなくなる。どの国の指導者も自分の政権の安定が第一で、少しでも政権の寿命を長引かせたいと願う。それを攻撃しても何のメリットもない。併し現実には、米韓演習で北鮮の政権打倒の訓練までやっており、意図的に緊張を作り出しているとしか見えない。去年策定された日米防衛協力のガイドラインには、「日本防衛は自衛隊が主体的に行い、米国は必要に応じて援助する」と書かれいる。集団的自衛権は日本の防衛には全く関係がない。


尖閣諸島と日中関係

6月会報尖閣諸島1

隣家との間に土地があって今自分が使っているのに対し、隣人が「この土地は祖父から我が家の土地だと聞かされているが、現在貴方が使っているのでそのまま使って結構です」と言った時、貴方は何と答えるか?「とんでもない、この土地は私のもので、貴方もそれを認めるべきだ」と言うのか、それとも「有難うございます。今まで通り使わせて頂きます」と言うのとどちらが良いと思うか?

当然後者だろう。田中角栄と周恩来の間で尖閣領有権の当分棚上げを確認した。その交渉の最後に、「これで全て話は終わりましたね」と念を押した周恩来に向って、田中が「未だ尖閣の話がある」と言った途端に、周は「それを言うなら、今までの交渉は全て元に戻してやり直そう」と反発し、台湾問題、日米安保条約、賠償などの重要案件の交渉結果が宙に浮きかかったので、田中も「それもそうだ」と尖閣棚上げに同意せざるを得なかった経緯がある。今になって尖閣棚上げは無かったと言うのは、日本政府による歴史の改竄に等しい。

ウズベキスタンには金鉱がある。カザフスタンには石油資源が豊富にある。中国が欲しければ簡単に侵略できるではないか? それをやらないのは、今や軍事侵略は長期的にマイナスだからだ。アメリカ国防省の2009年の報告では、「中国の指導者の最大の目標は共産党の独裁維持だが、共産主義の理念だけでは最早国民を納得させられない。その代案として対外脅威を煽れば、却って政権が強硬姿勢を求められて決してプラスにはならない。それに代るものは、国民の生活水準の改善以外になく、それによってのみ共産党は政権を維持できる。その為には、輸出振興、原材料や技術の確保、国際環境の安定が必要で、領土問題さえ解決出来れば問題はない」と分析している。

今世界は歴史の大きな転換期にあるが、CIAによる購買力平価ベースのGDPの比較では、中国のGDPは米国を既に越えている。ランド研究所の調査では、台湾の正面で米中戦争が起きた時の優劣は、2017年には中国が優位に立つと結論づけている。中国のミサイル技術の向上がその理由で、途中で燃料補給を要しない唯一の距離にある沖縄嘉手納基地の滑走路を攻撃されると、米空軍の攻撃能力は機能しなくなる。最早や米国に頼れば日本を守れると言う時代ではない。

尖閣諸島が安保条約の対象であるのは事実だが、第5条は攻撃された場合は、米国は憲法に従って(即ち議会の承認が得られれば)必要な行動を取ると規定して居るだけで、武力行使をするとは記されていない。他方、NATO条約では「攻撃されれば現状復帰の為、軍事力を含めて必要な行動をとる」と明記している。

軍事予算か福祉予算か


軍事国家になることは、福祉が切り捨てられると言う事。国立大学の無償化には3500億円必要だが、駐留米軍への思いやり予算は7000億円、若い人にこの辺りを説明する必要を痛感する。


【質疑応答】

6月会報学習会風景3

Q1. 中国の拡張主義を懸念するので、一定の防御態勢は必要と思う。

A1. 石原都知事の尖閣買い取り発言は、米国ヘリテージ財団で行われたが、この財団のクリングナー部長は2012年11月14日、「米国は日本の政治的変化を利用し同盟を進化させるべきである。自民党の安倍氏が首相になる可能性が高いが、その保守的な考えと、中国に対する日本民衆の増大しつつある懸念は、ワシントンが日米同盟で致命的に重要だと思う問題を達成できる絶好の機会である。日本はより大きい国際的責務を受け入れるべき事を明確にし、同盟国の安全保障上の必要性に見合うよう、防衛支出を増大させる。集団的自衛権により柔軟な解釈をするよう勧告し、日本は同盟国の資源を消耗させずに、効果的貢献を行うべきである。普天間の代替施設建設の前進への圧力を強める」との報告を行った。
 
 後藤健二氏がISに殺害された時、菅官房長官は「政府は身代金を出すつもりも交渉するつもりも全くなかった」と明言した。これは米国向け発言である。何故なら国務省の報道官が、個人的に日本政府に交渉に応じるなと勧告したと発言している。少なからぬ日本人が、日本人の命を救うより米国によく思われたいと考えている。

Q2. 日本は米国の核の傘で守られているから少ない防衛費で安全を確保していると考える人が多い。

A2. 世界で最も平和な国のランキングでは、1位アイスランド、2位デンマーク、3位オーストリア、
4位ニュージーランド、5位スイス、6位フィンランド、7位カナダ、8位日本、9位オーストラリア、10位チェコで、多くが島国で、平和国家を宣言している。日本の防衛費はGDP比でかなり低くて良いと考える。取りあえずは米軍に撤退願い、その後不必要経費を徐々に削減すれば良い。

Q3. 安倍さんや某女史が、しきりに強い日本や伝統ある日本に固執するが、どう思うか?

A3. 大きな国の流れを見ると、米国の右傾化は想像以上で、強いアメリカを求めるのは、自分たちの生活が難しくなっているから。そう言う状態の時には必ず強硬な対外姿勢が見られるのが世界共通の現象だ。1990年代に比べて、米国の個人純資産は、最下層20%で20%減、その上の20%(労働者階級)の層では50%減、その上の20%(中流階級)が20%減と深刻だが、他方トップ10%は75%増である。日本も1980年代まで経済が好調な時は、中国に対して批判や非難を口にすることは少なかった。

Q4. 対中国の抑止力は? 安保条約はどうあるべきか?

A4. 中国が日本を核で威嚇→日本は米国に援助を要請→米国は中国を核で威嚇→中国は米国に核の報復的威嚇。この中国の威嚇を受けて立てる大統領はいない。キッシンジャーやCIA長官、NATOの責任者だった人達も、核の傘を否定し、米国はどの国に対しても核の使用を約束したことはないと1978年頃報道された。米国は、自国が核攻撃を受ける危険を冒してまで他国を支援することは絶対にない。だから核の傘はないのだが、日本人は右も左もあると思っている。米国は朝鮮でもヴェトナムでも核は使えなかった。世界の世論が許さなかったからだ。オバマ大統領は来日した際、尖閣は安保条約の対象だが、領有権には介入しないと言い、尖閣問題にデッドライン(踏み越えてはならない最後の一線)はないとまで言っている。
                               6月会報南沙諸島1

にも拘わらず核の傘があるかに装いながら、集団的自衛権で自衛隊の海外展開を拡大させようとしている。テロとの戦いの無意味なことは、2000年代の犠牲者が年間500~600人だったのに2015年には30,000人に増えていることで明らかだ。多くの場合、政治的解決が可能であるにも拘わらず武力に訴えるのは、アイゼンハウアーが懸念した産軍複合体とイスラエルの存在の為である。
  9.11の真相は未だ不明だが、仮にオサマビンラデインとして、彼が何故テロを起したか? 考えられる理由は、イスラム教の聖地を抱えるサウジアラビアからの米軍撤退要求に米国が応じなかった為、彼が1996年に行った対米宣戦布告であろう。    
                                                                    (文責:天野 肇)
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