欅の木3余白削除70 会員の声(2019年5月) - 欅友会
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「 山 の 話」
                                    中島 巖

私は山へは殆どの場合一人で登ります。最近熊などの野生動物が増え人に危害をあたえる事があるのと、そもそも私は蛇が怖く虫も嫌いなので一人での山行は避けるべきなのですが、写真撮影が登山の大きな目的で、撮影している間パーティーの仲間に迷惑を掛けたくないためです。
                         2019年5月会報中島さん写真1

そのルートは私のお気に入りの一つで、登山口から尾根まで標高差700mを鬱蒼とした森の中の沢沿いに1時間半ほど掛けて登り、その後は尾根伝いに岩場を上り下りし、痩せた尾根を通り、深い笹をかき分け、壊れそうな木橋を渡りして神社の奥宮に着きます。奥宮の狛犬は他ではまず見られない姿の石造りの素朴なものですが、このように重たいものを麓から担ぎ上げた昔の人たちの深い信仰を感じさせます。この神社に到る尾根筋の視界は広く遙か彼方の山々を見通す事が出来るので、写真を撮るには良いルートなのです。

登山口から尾根までは急勾配なので高齢者にはなかなかに辛いルートではありますが、春の花々・初夏の新緑・秋の紅葉・冬の凍てついた沢など四季の移ろいを一年中楽しむ事が出来ます。また途中に三つの個性豊かな滝がある事も魅力です。最初の滝は落差こそ小さいものの下流にあるため水流が多くいつも元気に流れ落ちています。二番目の滝は落差40m程、登山道は滝壺前の沢を渡るようになっていて登山者は滝の真下を通り、迫力を肌で感じる事が出来ます。三番目の滝は尾根に近く水量も少ないためかさらさらと音も無く大きな苔むした岩を伝って流れ落ちていて気品があり、周囲に配置された祠等とともに、深閑とした森の中にあって独特の雰囲気を醸し出しています。この滝には石造りのベンチが置かれてあり、一息入れる事が出来るようになっています。
2019年5月会報中島さん写真4

その日もJRの終点の駅から一番のバスに乗り、登山口まで行きました。バスを降り身支度を調えて登りに掛かります。登り初めはいつも馴れるまでの間、疲れを強く感じます。暗い森の中を喘ぎながら進み、三番目の滝に着きました。補水と撮影のためベンチに荷を下ろしたとき、向かい側のベンチに一人の老婦人がいて私に声を掛けました。「ここで写真が撮れますか?」。私は何を言われたのか即座には理解できませんでした。『自分もカメラを持っているから撮ってほしい』あるいは『こんな(暗い)ところで写真など撮れるのですか』このような意味かと思いました。応えようが無かったので「はあ」と曖昧な返事にもならない事を言って、よくここまで登ってきたなと余計な事を考えながら自分のカメラで写真を撮りました。4~5分掛けて写真を撮り終えてベンチに戻ったときには、既に老婦人の姿はそこに有りませんでした。

なんとも言えない不思議な感情に囚われた事を記憶しています。良く考えてみると、一番のバスで登山口の停留所を降りたのは私一人です。このルートは一本道で後から来た人に追い越された事もありませんし、他にルートが有ったとしてもこのルートより遠回りになります。逆ルートからここまで来ようとすれば、朝余程早くに出発しなければなりませんが、そのような必要は普通には無いように思われます。可能性としては登山口の近くに宿泊した人が朝早く登り始める事が考えられますが、このルートはそこまでして登るメジャーなルートではありません。私がこのルートを選ぶのは被写体として気に入っているからですし、また早起きして一番のバスに乗るのは、朝の空気が澄んでいて写真撮影に適しているからです。

今もってあの老婦人は(繰り返しますが老婦人です)どのようにしてあそこにいたのか理解が出来ていません。前にも書きましたとおりかなり急勾配の道で普通には簡単ではないのです。いったい何だったのでしょうか・・・

                  2019年5月会報中島さん写真6
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