欅の木3余白削除70 4/13 川島 真 先生 - 欅友会
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学習会の要旨

◎4月13日学習会の要旨                                    

日 時:4月13日(土) 13:30~15:30
会 場:東京経済大学 2号館B301教室 
テーマ:「習近平の目指す中国とは」 
講 師:川島 真 先生 
(東京大学大学院綜合文化研究科教授)
出席者:268名(会員:男性192名、女性56名        
         非会員:男性12名、女性8名) 
2019年5月会報川島真先生1


【講演要旨】

1.中国は社会主義国である

(1)中国は共産主義国でなく社会主義国である
                             2019年5月会報中国1

・生産物や生産手段を誰かが均等にしないといけないのが社会主義で、何もしなくても自ずと平等になるのが共産主義である。中国共産党は現在の社会主義を共産主義国家にすることを使命としている。

・現在は資本主義から社会主義へ進む過渡期である。資本主義は未だ行き詰まっていないので、資本主義的要素を取り入れても良いとの中国の認識。

・中国が目指す社会主義はマルクス・レーニンが唱えた社会主義ではなく、マルクス思想を毛沢東思想に基づく独自の思想で解釈した、中国的特色のある社会主義を実践している。

・最近、中国の大学生の中で「マルクス・レーニンin中華」を組織し、マルクス・レーニンの唱える本来の社会主義を正しく学んで、中国は社会主義国なのに工場労働者はどうしてこんな酷い目に遭うんだと言って、中国の労働者をもっと解放すべきだとの運動を北京大学の学生が起こしている。政府は弾圧したいが社会主義とは何かという社会問題になるので、今のところ静観している。

(2)中国の路線対立(1949年の建国当初から始まる)と改革開放

2019年5月会報改革開放1

・生産から生活まですべて平等な分配を原則とする …毛沢東
・資本主義的な要素の競争の原理を入れる ……………劉少奇、鄧小平
この対立が続き文化大革命を経て、最終的に鄧小平の主張する資本主義的要素を取り入れた政策が勝ち、1978年に改革開放路線が開始され、1990年代から市場経済が導入された。

「中国の政治は社会主義、経済は資本主義」の言い方は誤り。中国には所有制は無く使用権は可)、公有制の国に資本主義はあり得ない。産業構造でも川上産業と言われる鉄鋼、エネルギーなどのインフラ関連、金融四社など主要な産業は国有にして、末端の製造業は民間企業である。従って経済も社会主義と言える。マーケットの部分は市場経済を大いに導入しているが、これは改革開放の精神である。市場経済がどんどん進み、GDPでも国有企業よりも民間企業の方が多くなっている。中国の経済が大きく成長できたのは民間企業のお陰であり、本来なら国有企業改革も必要である。(後述)

(3)中国の成長モデル

人々は中国共産党について行けば豊かになれる、すなわち経済発展は人々を惹き付けていく重要な手段と一般に見られている。しかし、どんなに経済発展しても民主化することは想定していないと思われる。どんなに経済発展しても共産党の一党独裁は変わらない。1980年代中ごろ鄧小平は中曽根総理との面談で、将来的に西側の国のように民主化することを否定しないが、今は未だその時期ではないと伝えた。しかし、胡錦涛政権の後半ごろ(10年ほど前)から西側と違う方向を目指すようになったと思われる。大きな方向転換があったのではないか。

2.経済発展と民主化の相関関係の変化
(田中明彦教授の「三圏域とGDP」の図で解説。)

(1)経済発展すれば、人々の権利意識が高まり、国の民主化が進む…相関関係あり(従来の考え方)
経済発展と民主化度の高いアメリカ、日本などの先進国、そこを目指して台湾、韓国、ブラジルなどが続き、多くの国は経済発展すればこのグループに入っていくと考えられていた。

(2)経済発展はするが民主化はしない国…相関関係なし(最近の傾向)
中国、ロシア、サウジアラビアなど。最近増加傾向にある。
経済発展をして豊かになると納税などを通じて人々の権利意識が高まり、民主化が進むという法則は通じなくなって来たらしいことを意識する必要がある。民主主義の国や地域が減り、先進国の方が少数派になるかもしれない。中国がおかしなことをやっている、中国が変だとは言えないかもしれない。

3.中国の将来像と国際関係

(1)2025年:中国製造強国を目指す(2015年国務院:イノベーションを推進し製造業で優位性を築く)。

(2)2049年:アメリカに追いつく≪2017年(秋第19回党大会の習近平の演説)≫
                                   2019年5月会報星条旗1

①2049年には中華民族が世界の諸民族をリードし、中国的特色のある社会主義現代強国を作る。実現するために、中国共産党の指導力を一層強化し、人々の全中国の資源を共産党に集中する。

②「新型国際関係」という概念の提起。
経済発展に基づく利益によるウィンウィンの関係を構築し、パートナーシップができ上る運命共同体を中国が実現していく。
⇒従来の先進国の考えは民主主義が広まれば世界は安定するので、その前段階として経済発展のために低所得国を支援するというものである。(日本のODAなどもこの発想に基づく)

(3)経済力を背景に世界各地域へのインフラ整備や国際公共財の提供などの経済活動を行っている。遠い国には経済中心、経済力が進んだ国には政治や軍事も関連を持つ。(トルコとは軍事友好交流、逆にインドはすでに軍事的プレッシャーを感じている)

(4)習近平は国際秩序を守るというが、守るのは次の第一項目のみ
・国際連合とその関係機関の決定する秩序は尊重する
・アメリカとその同盟国との軍事的関係は無視(日米安保など)
・アメリカや先進国間で作っている価値感には従わない

(5) 基本的スタンスは(ⅰ)アメリカに追いつくこと(ⅱ)アメリカと違うモデルを採用すること。

4.中国が直面する課題(人口問題=習近平の焦眉の課題)

(1)一人っ子政策の歪み(この政策は1980年前後から始まる)
 生産労働人口はすでに減少傾向にあり、2020年後半から高齢化が一気に進む。
⇒生産労働人口が減少する中で高度成長した国は世界中で前例がない。

(2)少子化の対策と問題点
・子供の出生率を上げるのは困難(大都市=北京、上海、深圳=の住宅事情は極めて厳しい)。
・外国人労働者の受け入れ…従来から外国人を厳しく規制をしており実現は不可。
・AI、IOTの活用…単純労働を減らせば労働人口の不足は何とかなる考え、多額の研究投資をしている。
⇒モデル未来都市:雄安(河北省保定市)。

(3)社会保障費の問題⇒大きな財政問題になりかねない
➀急速な高齢化の中で、最近5年間で社会保障費が急速に増えており、財政を圧迫しかねない。
②保障金額が低いことと、省間の金額格差の大きいことも問題。
⇒省間格差は豊かな省(主として沿岸部)が貧しい省を支援する制度があるが不満が出ている。

(4)スマートフォンをはじめとするITによる監視社会
・情報連絡の監視、監視カメラ、電子マネー(税収アップ、買物・旅行・食事などの支出などを個人
別に把握)、ビッグデータによる国民の意識・情報の収集
・行き過ぎの反作用として民間活力の低下、イノベーションの停滞の懸念がある。
⇒中国には「上に政策あり、下に方策あり」という諺がある。

5.中国が直面する課題(習近平政権の強みと弱み)

(1)面従腹背(サボタージュ)
 習近平は強固な基盤の上にあり非常に強いので、指示命令は徹底されているかに見えるが、すべて順調ではない。中級幹部や地方の幹部の中には、中央から指示を出しても動かない、やらない日和見的な面がある。(人民代表大会における李克強首相の叱責)
例えば反腐敗運動は、誰をどのタイミングでどのように罰するのか不明確なので、特に地方の中級幹部クラスは何かをやると、それを口実に粛清される懸念を持っている。行動して疑念を持たれるより、何もしない方が得策と考える。要は多くの事について基準が曖昧・不明確であり、安心して行動できない。

(2)進まない国営企業改革
・企業改革の進まない国有企業
・経済発展しても民主化の進まない国有企業
国有企業は資金や許認可などで優遇され、もろもろのメリットがある。従業員の中の中産階級の多くは共産党員(中国人口約13億人の内9千万人)で、相応の生活をしており、自らの国有企業改革にメスを入れるような自殺行為はしない。逆に政府の中には大手の通信・IT企業 アリババ(通販)、テンセント(ゲームソフト他)、バイドゥ(通販ほか)を国有企業にすべきとの議論が以前から続いている。
ちなみにこの三社は人民代表大会、政治協商会議に代表(共産党員)を出しているが、先般カナダで副総経理が逮捕されたファーウエイ(華為)は代表を出していなかった。(完全な民間企業である華為にアメリカはどうして手を出したのか?) 
2019年5月会報ペンス講演

(3)アメリカの対中政策の転換
昨年1年間でアメリカの対中観は大きく変化し、非常に厳しくなっている。
ペンス副大統領の演説(2018年10月ハドソン研究所でおこなわれた)
包括的に中国を批判している。内容は民主主義、テクノロジー、知財、人権、軍事安全保障、台湾問題、新疆ウイグルの民族問題などである。テクノロジーを不正に入手している、アメリカの民主主義を妨害しようとしている、ロシアと同じだとまで言っている。

➀中国はこの演説をペンス個人的なものとしたいが、アメリカ議会(共和・民主両党)、官僚,省庁、司法などあらゆる部門がペンス副大統領に協調し、批判するだけでなく新しい法律を作り、中国に制裁を課そうとしている。

②中国は北京でやっている経済交渉でトランプ大統領に賭けているが、これは中国側の誤解で、この交渉が一旦妥結しても、そのあとから数々の批判や具体的な政策が中国を襲う。

③アメリカは、指定した対象製品を中国と取引しない、指定した産品を扱っている中国系企業とは取引しないという制度を近々作る。この種の会社はアメリカでは営業活動が出来なくなる。

④これらの制度は同盟国に拡散していく。テクノロジーについてファイブアイズ(アメリカ、イギリス、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア)に対し同じ基準でやることをアメリカは要請している。⇒日本はアメリカの言うことをすべて聞くことは非常に難しい。サプライチェーンとして日中の緊密さはアメリカと全く違う。但し黙ってやれば第二の東芝ココム事件になりかねない。
                           2019年5月会報トランプと習近平1

6.アメリカの中国に対する危機感の背景

アメリカは歴史的観点から、中国に対する危機感を持っている。
(2000 years of economic history in one chart 図で解説=年次別世界のGDPの国別ウェート)

①2000年にわたる世界のGDPの国別シェアで見ると、西暦0年から1700~1800年ごろまでは世界のGDPの約50%は中国・インドが占めていたが、1800年代に入るころから、いわゆる欧米の先進国にGDPが集まり、中国・インドの比率は10%程度に減少した。人口の少ない先進国に富が集まった。

②これは産業革命の影響であり、特に蒸気機関の発明に依るところが大きい。新しいテクノロジーにより、一人当たりの生み出す富が圧倒的に欧米の方が多くなった。

③蒸気機関からスマートフォンに至るまで欧米の先進国(ソ連を含む)がテクノロジーの進歩・転換を主導し、多くの富を稼いできた。日本も上手くこの勝ち組に乗ってきたと言える。しかし、この20年間に中国・インドのGDPのウェートは上がってきている。彼らが先進国のテクノロジーを上手く利用して富を稼ぎ、再び追い上げてきた。

④アメリカは、次のテクノロジーの革命・転換点は中国が主導するのではないかということを怖れている。5Gにおけるファーウエイはその象徴ではないかと危惧している。特に前述した2049年の習近平の目標及び中国製造2025プロジェクトを絡ませて考える向きもある。
⇒国防省を含めワシントンでは中国の固有製品が危険であるとのリストアップが行われている。

7.中国側の対米交渉

アメリカの中国に対する厳しい姿勢を受けて、中国で外交に関し大きな転換点があった。
2018年6月中央外事工作委員会=重要視されている会議で習近平が仕切っている。

この会議で確認された基本方針は
・アメリカ重視、しかも敵対しない、穏便に。
・大国はアメリカだけではない。外交に大国・小国は無いので、どの国ともしっかりやる。とりわけ大国とは個別突破主義。

8.安倍訪中の誤算と日中関係

➀安倍訪中(2018/10)は訪中直前にペンス副大統領の演説(前述)があり、米中の緊張が高まった非常に悪いタイミングであった。安倍訪中は先に決まっており、日中関係を改善したいと途絶えていた首脳交流が目的だったが、世界のメディアは訝しげな印象をもった。

②訪中前、基本的には2008年に終了し、わずかに細々と残っていたODAについて改めて終了を宣言したのもアメリカへの配慮である。(技術教育に伴う技術移転などしないことの表明)

③一帯一路については2017年に「開放性、透明性、経済性、財政の健全性」の4条件が保たれれば評価すると表明しており、中国側はこの4条件を言わずに日本が容認したことを内外に宣言した。

④日本の代表団は中国と新しい52のプロジェクトを日中以外の第三国でやることを発表。中国からは日本が一帯一路に賛同して、東南アジアで行動するように見えた。日米関係もあり、安倍総理の立場は微妙であり、中国側も受け入れるようでありながら、歴史や領土問題では受け入れなかった。
        2019年5月会報一帯一路構想1

9.一帯一路の課題と中国の対外支援の見方

(1)習近平は民主主義を媒介にしない新型国際関係の実験場として、一帯一路を位置付けている。重要な枠組みは年に1回のフォーラム程度で、大本営があって、順次指示を出しているようなものではない。多くの場合は結果論である。

(2)日本における中国の報道ぶりについて幾つかの問題がある。
低所得国(ラオス・カンボジアレベル)に対する資金援助について債務の罠とか、借金漬けにしたとか取り上げている。当たっている点もあるかもしれないが、それをもって批判してもあまり意味がない。中国の援助がブラックマネーなら日本や先進国はクリーンな資金をこれらの国に提供できるかと言えば中国ほどの余裕はない。中国の資金提供が無ければ、国家建設は止まってしまう場合がある。

デジタル監視システムを設置したから民主主義を脅かす人権問題などと言っても、これにより治安が良くなり、2~3年前までは街が荒れて、住民の生活が脅かされていたものが助かったことを、これは民主主義に反すると言ってどうなるか。中国のやっていることを批判するのは簡単だが、それでもなお受け入れざるを得ない国々の人に何をしてあげられるかの問題である。

ただ、これらの援助を受ける側が中所得国(マレーシア、インドネシア、タイ、など)の場合は中国に対し、きちんとものが言える(例えば鉄道建設に対するマハティールの交渉や最新のデジタル技術の提供を要求)。従ってその国が中国とどのような関りを持っているかによって一帯一路の評価は変わる。それを十把一絡げにして中国を評価するのは当たらない。

(3)中国はラオス・カンボジアレベルの低所得国に対してはどんどん資金を提供していけば良いが、所得水準が中国と同等か、より高い中所得国に対しては中国は何ができるかは中々難しい。中国単独でできることに限界がある。そこを理解しないと習近平の言う新型国際関係によるウィンウィンの関係は構築できなのではないだろう。中国はまだまだ大変な状態である。



本日、中国の目指すものは何で、そこにある課題は何かについて話した。内政問題、外交問題の目標は分かるが、それを実現するのは中々大変で中国は相当苦しんでいる。お願いしたいのは、頭越しに中国のやっていることが「悪い、けしからん」と言うのではなく、中身を見て共通するものには寄り添って一緒に解決していくことが望ましい。日本は先進国で強いから、中国は日本と全然違う発想を持った人が多いと言うことを前提にして批判すべきである。
―質疑応答は省略します― 
                                                (文責:小笠原正文)

2019年5月会報川島真先生風景2

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