欅の木3余白削除70 1/12 青木 亮先生 - 欅友会
FC2ブログ

欅友会

学習会の要旨

◎1月12日(土)学習会の要旨                        

 2019年2月会報青木先生2
     
日 時:1月12日(土) 13:30~15:30                             
会 場:東京経済大学 5号館 E102教室 
テーマ:「理想の都市内公共交通とは?
―フランスの都市交通政策から考える」  
                                       
講 師:青木 亮(あおき まこと)先生 
(東京経済大学 経営学部教授)                                       
 出席者:221名(会員:男性163名、女性55名、
         非会員:男性3名)

【講演要旨】


(はじめに)

ご紹介頂いたように交通論を専攻しており種々の問題に取り組んできた。日本の地方の交通問題は過疎化、高齢化などを背景に暗い話が多くなることもあり、新年早々であり明るい話題と言うことで、フランスで都市の活性化に繋がったトラムの話をし、日本での公共交通の参考にできればと思う。

1. フランスでのトラム再導入と普及

・仏ナント市はロワーヌ川河口の人口第6位の大都市。アンリ4世による「ナントの勅令」で知られる。造船業、菓子産業、たばこ産業がかつて栄えた。ナントでは1826年に世界で初めて乗合馬車が運行を開始し、その後、路面電車化した。路面電車は乗合バスへ転換され、1958年に廃止された。1977年シェナール市長(左派)の時代に交通問題解決のため大幅にイメージチェンジした近代的なトラム導入を決定した。1983年トラム反対のショティ氏が市長に当選するが工事は継続し、1985年には1号線が開通した。

            2019年2月会報ナントの勅令2019年2月会報ナント市


・大雪の時にナントで路面電車だけが運行したこともあり仏全体への良い宣伝となった。その後グルノーブル、ストラスブールなどでトラムが開業し、2015年にはトラムは25都市、TVRなどが5都市で導入されている。地下鉄(含むVAL)は人口100万人弱、トラムが人口30万人弱、ガイドウェイ・バスはトラムより人口の少ない都市で導入されている。

2019年2月トタム(1950年)2019年2月会報トタム(グルノーブル)2019年2月会報トラム(ストラスブール)


2.トラム導入は市長を落選させたか

トラム導入を決定したシェナール市長は1983年の選挙では再選されず、トラム反対派のショティ氏に代わった。トラム導入が再選を阻んだのであろうか。

・1983年の地方選挙では、過半数の支持を得た第一位政党が市長と議会の多数派を握る方式であった。当時国政レベルでは左派に逆風が吹いていたこともあり、右派のショティ氏が過半数をわずかに上回る得票で市長に選出された。ある種の番狂わせとも考えられ、トラム建設が直接の原因ではない。既に建設中のトラムはショティ氏も中止できず、路線開業につながった。
3.なぜトラム導入に至ったのか

・トラム導入の背景は、①都市部を中心に道路渋滞の発生、環境の悪化、中心市街の空洞化の存在。②都市周辺に建設された高層住宅に移民や低所得者が多く移住しており、80年代以降、老朽化や各種社会問題が発生したことへの対応である。

2019年2月会報ナント高層住宅2019年2月会報交通問題1

・1982年に策定されたPDU(都市圏交通計画)の政策目標は、①自動車交通の削減、②経済性、環境保全に効果的な公共交通、自転車交通、歩行者交通の整備、支援、強化、③国道、県道を含めた都市圏内の全道路ネットワークの効率的な整備、運営、④駐車政策の体系化、課金システムの適用、などである。これら目標を達成するためには、バスに代わる質の高い交通手段の整備=TCSP(トラム、BHNSなど)の導入が必要とされた。

2019年2月会報パーク&ライド2019年2月会報パーク&ライド2
・フランスのトラム路線の特徴は、①自治体の作成する都市計画や交通計画の中に位置づける。②バスなど他の公共交通手段や自家用車との連携。パークアンドライド(P+R)の実施。③路線新設であり病院、大学、団地、ショッピングセンターなど需要の見込める施設への乗り入れ。④中心市街地での自転車乗り入れ規制や駐車場政策等を通じて自家用車から公共交通への転換を意図、⑤都市交通の計画、整備、運営はAOTU(都市圏交通機構)が責任を担い、実際の運行は民間企業に委託する、などがあげられる。

4.フランスの運行委託制度

・フランスの公共交通では多くの場合、実際の運行を民間会社に委託している。受託企業はKEOLIS社、TRANSDEV社と独立系の公営事業者の連合体であるAGIRに集約されており、寡占化が進む。委託契約にあたり、サービス内容、運行条件、資金計画など多岐にわたる事項を取り決める必要がある。契約変更はトラム導入やバス路線再編時に起きやすい。また運転手など現業職員の処遇を定めた全国的な労働協約の存在など、日本とは前提条件が大きく異なっている。

5.トラム整備を資金調達から考える

・トラム導入を可能にしている大きな要因の一つが「交通負担金」なる制度。地方自治法典に規定されており、税率はパリを中心とするイル・ド・フランス圏では1.6~2.95%、地方都市では0.55~2.0%内でコミューンが決定する。企業は通勤手当を払わない代わりに、公共交通整備を進める資金として交通負担金を負担するとの考え方である。

・地方自治体としては、軌道系のトラムを導入することで交通負担金の税率を上げることができ、それを財源に地域公共交通全般の改良を進めることができるので、導入に積極的になる。

・2012年の都市交通財源を見ると、営業収入14.4%、交通負担金39.8%、地方自治体30.8%と交通負担金の割合が大きい。

6.トラム導入の成果は

・フランスの都市交通計画の目的として、自動車交通の削減や公共交通の整備、支援などが規定されており、収支に力点は置かれていない。整備による需要増加などに評価を置く傾向がある。トラムを導入したナント(+29%)、グルノーブル(+30%)、ストラスブール(+26%)、ルアン(+33%)では同規模都市(‐3%~7%)と比較して、利用が増加しており、これがトラム整備の1つの成果として示せる。

・計量モデルによる分析からも成果は示せる。1985年以降、軌道系都市公共交通を急速に整備しているフランスは、自動車利用と共存した形で、地域公共交通の利用者増加を実現しており、また高齢者の公共交通利用を促進させているという側面が伺える。

7.新たな高品質サービスを求めて。試行錯誤は続く

・トラムはメトロやVAL(日本の新交通システムに相当)に比べると費用負担は軽いが、バスと比較すると大きな負担を伴う。財政制約の下、またトラムほどの輸送力を必要としない路線に、高品質なサービスを提供するため、より費用負担の軽い新たな交通手段が導入された。
2019年2月会報TVR(カン)

TVR:ナンシーやカンで導入。中央の案内軌道をガイドウェイとして利用し、架線から電気でモーターを駆動し、ゴムタイヤ車両が走行するボンバルディア社の開発したシステム。

トランスロール:トランスロール社が開発した中央のガイドウェイを左右から車輪で挟み込み駆動するシステム。クレルモンフェランで導入。

TEOR(光学式ガイドウェイ・バス):ルアン都市圏を東西方向に運行。光学システムを利用し、比較的低需要路線でトラム並みの高品質輸送サービスを提供。
                          2019年2月会報バスウェイ

バスウェイ:フランス版BRT。ナント都市圏を南北に結ぶ路線に「第4のトラム」として2006年11月に導入。トラム路線と同等の高品質なサービスを提供しつつ、導入費用はトラムの1/3。渋滞対策として専用レーンを整備する他、トラム同様に屋根付き専用バス停を設置するなど工夫を凝らす。

クロノバス:2012年10月にナントの4路線に導入し、その後も対象路線は拡大中。トラムやバスウェイを導入できない路線に、高品質なバスサービスを提供する。

8.日本で唯一の動き。富山ライトレールの開業

・富山ライトレールが2006年4月29日、サービス向上とバリアフリー化による利便性の向上を目的として富山駅北と岩瀬浜間(路線長7.6㎞、所要時間25分)に開業した。

2019年2月会報富山ライトレール2
・開業前と比較し平日の利用者は2.1倍、休日利用者は3.1倍に増加した。また利用者の1割は自動車からの転換であり、2割は新規の利用者である。

・財源スキームとして、毎年の運営費約3億円の内1億円を施設の維持管理費として富山市が補助し、建設費約58億円は富山市(27億円)と富山県(9億円)、国(22億円)で負担。トラムで建設費と施設の維持管理費を自治体が負担する公設民営方式による我が国初の事例となった。

9.最後に

・フランスでは、中心市街地活性化や環境対策、渋滞解消など政策目標を定め、市内乗り入れ規制やパ-クアンドライド、乗換利便性の向上など自家用車から公共交通利用へ転換を目指すさまざまな仕組みが設けられている。交通負担金などの存在が、高品質だが多額の資金を必要とするトラムの整備を促進した。財政制約に直面したことや、低需要路線への導入などから、より安価な新たなモードを模索中である。

・我が国でも富山ライトレールなど、質の高い公共交通サービスを提供することで、公共交通利用の促進につなげている事例が存在する。施設整備など資本費については、上下分離の導入や補助制度により公的支援制度が設けられるが、運営費に対する補助はない。また交通負担金などの潤沢かつ恒常的な財源が存在しないため、相対的に費用負担の大きいトラムなどの軌道系交通手段の導入は、自治体に大きな負担となる。整備や運営費の財源確保がいかに重要であるかが日仏の事例から理解できる。

(質問)

Q1:元旦の新聞でアセアン会議が開かれたジャカルタ市が環境整備型のスマートシティーを目指すと載っていたが、交通政策の情報はなかった。先生がご存知の情報はあるか。
A1:本件について具体的な情報は持っていないが、交通渋滞対策として公共交通整備を行うなど、環境負荷の少ない都市を作るという事と思われる。

Q2:東京都内は地下鉄、JRが多数運行されており交通網に問題はないが、国分寺、立川、八王子などの公共交通のあり方をどう捉えれば良いか教えて欲しい。
A2:トラムのような公共交通を検討するのは県庁所在地などの地方主要都市が該当する。国分寺などでは財政的に難しい。ナント市で運行を始めたクロノバスの考え方を参考に、バスサービスの質の向上やそれへの投資などがポイントと考えられる。 (文責:増田保武)



                       2019年2月会報青木先生4
(1月12日の学習会風景)
メニュー
アクセスカウンター
リンク