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会員の声

◎会員の声 ②



「山と俳句紀行 伊那・大鹿村の宿」
                                 川越 尚子



信州は伊那地方の山奥に大鹿村というところがある。その村に十数年来常宿として利用している民宿がある。三人の子供たちが巣立ってからは、年末から正月にかけて夫と東京を離れてのんびりと過ごしているし、そのほかにも年に何回かは足を運んでいる。
2018年5月会員の声大鹿村赤石岳1

大鹿村は古代から人が住み、馬を飼い、焼き畑をして黍や粟を育てて生きてきたと思われているところである。鹿塩という地名が残っているように塩水が湧き、この地方の重要な生活源であったといわれている。常宿は村の中心地より更に奥にあり、日本全国観光地化している中で、ここだけは昔ながらの静かな村であって、ネオンもコンビニもない村の風景は、四季折々の自然のやさしさで都会人を迎えてくれる。宿の窓からは南アルプスの赤石岳が、冬は雪をかぶった端正な姿で、夏は岩の露出した豪快な容姿を見せている。

  冬空に赤石岳の尾根光る
  岩峰の雪はまばらに夕日燃ゆ
  北颪韋駄天に村駆け抜けて

常連客が集まる年末から正月にかけては特に楽しい。七夕の織姫と彦星のように年に一度の再会に宿仲間は囲炉裏を囲んで埒もない会話をしてくつろぐ。

  定連の囲炉裏親しや酒うまい
  他愛なき話はづみて年の暮れ
  山男いろりを囲む席変へず

                             2018年5月会報会員の声大鹿村歌舞伎

またこの村には三百年も前から続いているという大鹿歌舞伎がある。単なる村芝居とは言えないほど立派な演技で感心するばかりである。

  春芝居三上ぐ村人茶碗酒
  村人の熱き眼や里祭
 
 おひねりの飛び交ふ鄙の里祭

歴史のあるこの村にはあちこちにその名残りの由緒ある神社仏閣がある。後醍醐天皇の第八王子宗良親王の祀られている信濃宮や三十有余年の隠れ家など数あまた見られる。

  薫風や村のはずれの阿弥陀堂

1994年の元日には夫と木曽駒ケ岳に登った。夏なら高山植物の宝庫として賑わう千畳敷も白一色の世界である。防寒服に身を固めてアイゼンをつけての登攀は強い風との戦いであったが、天候にも恵まれ久々の冬山登山に満足であった。翌年の正月宝剣岳から千畳敷に崩がおきて大勢の遭難者を出したことは記憶に新しい。

  我立ちし山に雪崩のありにけり

1995年には南アルプス塩見岳に挑戦した。塩見岳は赤石岳の北側にある姿の美しい魅力的な山である。同じ南アルプスでも北岳、仙丈岳、甲斐駒ケ岳のような派手さはない代わりに静かな本格派のアルピニストの山だ。
三伏峠からの登りは暑さのため結構厳しいものであったが、晴天の三千メートルの山頂は爽快そのものであった。無事に下山して常宿に一泊してヒノキのお風呂で山の汗を流した。

  朝霧や静かに登る杣の道
 
 羚羊のとぼけ顔なる小屋の前



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