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学習会要旨

2018年3月会報土居先生3

◎2月17日(土) 学習会の要旨 

日 時:2018年2月17日(土)13:00~15:00 
場 所:東京経済大学 5号館E102教室
テーマ:「日本の財政問題
講 師:土居 丈朗 先生(慶應義塾大学 経済学部教授)
出席者:243名(会員:男性179名、女性58名、
        非会員:男性4名、女性2名)

〔講演要旨〕

1.日本の財政状況

日本の財政は、歳出の大半が、医療、介護、年金などの社会保障関係費とバブル崩壊後に累積された国の借金の返済と利払い(国債費)とで占められており、残念ながら教育費や公共事業費、防衛費等にはあまり使われていない。一般会計歳出の構成比(資料1頁の表)を見ると、高度成長期の1965年頃は公共事業費に全体の21%が割かれ、社会保障関係費の14.7%よりも多かった。この公共事業費は、金額自体はその後も増えるが、構成比はバブル崩壊までは減少し、2018年度予算では6.1%(6兆円)になっている。
                                 2018年3月会報土居先生(財政1)

社会保障関係費は高齢化が進んで増大し、構成比は年を追うごとに上がり、2018年度予算では33.7%(33兆円)になった。国債費も増えて、1965年度の0.3%から1985年度には19.2%に拡大して2018年度のいまは23.8%(23.3兆円)を占める。それに対し、文教及び科学振興費は5.5%(5.4兆円)ほどに留まり、防衛費も、最近は安全保障環境が厳しくなっているが、それほど多くはなく5.3%(5.2兆円)。社会保障関係費と国債費とが、一般会計歳出の大半を占めており、問題はこの歳出をどう賄って行くのか?

一般会計歳入予算は2018年度で97.7兆円。その内約60%(59.1兆円)が税収で、国債発行が約35%(33.7兆円)を占め、税収は増えてはいるが、借金にも頼りながらやり繰りに苦しんでいる。税収の内訳は、資料1頁の円グラフのように、所得税が一番多く32.2%(19兆円)を占め、次は法人税だった。好況時には法人税が増え、所得税も増える傾向にあったが、最近はそれが変わり、消費税が2番目に多い。法人税が消費税より少なくなったのは、減税したことによる。

法人税減税は2012年の第2次安倍内閣になって実施された。アベノミクスの3本の矢の成長戦略によって経済成長を促そうとしたからだ。日本企業が国内で活発に活動して利益をたくさん上げてもらわねばならないが、日本の法人税率はヨーロッパやアジアの国々に比べて高い。日本だけが法人税を高くしては、企業は外に出て行き国内の経済活動が縮小するということで下げた。

2.政府の借金の大きさ(政府債務残高対GDP比)

わが国の財政は、一言でいえば、借金が多い。G7+ギリシャの「政府債務残高対GDP比」を比較したのが2頁のグラフ。日本は90年代以降右肩上がりに増えており、いまは国と地方自治体の借金残高合計はGDPの2倍強。バブル崩壊以降、日本は国債を増発して公共事業による景気対策を実施したが効果は少なかった。バブル崩壊で困っていたのは経済活動が活発な都市部だったのに、あいにく公共事業は農村部中心になされたからだ。それが90年代前半の日本の姿。90年代後半になると様相が変わる。高齢化が進み始め、それに伴って社会保障費がさらに必要となり、そのお金が増税によって賄えない状況になった。

確かに97年に消費税は3%から5%へ増税したが、その後は金融危機などもあって、その後の増税が難しくなり、結局、社会保障費は増えていくが、それを借金でやり繰りするしかなく、そうして債務残高が増えていった。2000年代以降借金が増えたのは高齢化が進み社会保障費が増えたが、増税せずに借金で穴埋めしてきたからだ。

2018年3月会報土居先生(ギリシャ国旗1)

それに対し、他の国、特にヨーロッパ諸国は、統一通貨のユーロを作った時に、自分たちのユーロが信用のおける通貨であることを認めてもらうための取り組みを協調して行い、各国が財政赤字を増やさないように努力した。ところで、2012年にギリシャで財政危機が発生した。きっかけは単純で、選挙が行われて政権交代が起こった時に、新政権が、前政権が示していた財政状況の数値が改ざんされていたことを明らかにし、それが元で政府の信用が失墜して国債が暴落し、金利が30%と言われるようなレベルにまで高騰して借金が出来なくなってしまった。

最終的にヨーロッパ中央銀行(ECB)が面倒を見て収まってはいるが、借金はしなければやっていけないし、しかし高金利でしか借りられなくなったので、日本に次ぐ規模の「政府債務残高対GDP比」になり、これ以上悪化しないようにECBにモニタリングされながら、債務残高の削減に努力している。その点、日本はモニタリングされることもなく、借金は増え続けている。

借金の全てが悪いわけではない。例えば、公共施設など将来に亘って利便性が提供されるものは、借金して造って、その借金の返済負担を将来世代と分かち合うことは問題ない。だが日本の場合、2000年代以降は、社会保障のための借金が主で、その恩恵を受けるのはいまの世代の人に限るのに、負担を将来世代に残してしまうという問題がある。とは言え、債務残高が増えてもギリシャのようにはなっていない。それは、日本国民が間接的に国の借金のほぼ9割を負担していて、政府にお金を貸している形になっているからだ。ギリシャは7割が外国からの借り入れで、外国の金融機関がそっぽを向くと、たちまちお金が入ってこなくなる。しかし日本の場合は、われわれや民間銀行が問題にしなければ問題にならない。引き続きお金は借りられる。
              2018年3月会報土居先生(日銀1)

もう1つの問題は、第2次安倍内閣以降、日本銀行がたくさん政府にお金を貸す形になっていること。日銀は、政府に直接お金を貸すこと(日銀引受け)は禁じられている。ただし政府が国債を一旦民間金融機関に売る形でお金を借り、その国債を日銀が買い取ることは許されていて、その方法で日銀は国債発行残高の4割を保有しており、間接的に日銀が政府にお金を貸す形になっている。日銀と政府は一心同体だから大丈夫という人もいるが、本当に大丈夫だろうか。

いまはデフレだから良いが、物価が上がってインフレになると事態は一変する。日銀は、いまはデフレを止めるために国債を買っている。いずれ物価も上がってデフレからインフレに変わればお札の価値が下がる。皆がお金の価値が下がると思えば、手元に置く現金の量を最小限にして、できれば金利のつくものに変えたいと考える。民間金融機関も手元にある大量の現金を、日銀が持つ国債と交換すべく売ってほしいと必ず言うようになる。日銀も市中に出回るお金の量をほどほどにしたいのでそれに応じ、その結果は日銀が持つ国債が減ってデフレが終わることになる。

これによって国が財政危機になることはない。ただし問題は、そうして民間が保有することになった国債が満期になると、政府はその借金を返済しなければいけないこと。その返済財源は、他の予算を削って工面するか増税するか、借り換えるかしかない。借金を返済するときには、きちんと予算を組まなければならない。今でも既に一般会計歳出の4分の1近くを借金返済(国債費)に充てており、それがさらに増えると社会保障や教育など他の予算を圧迫する。借金は返さなければならないし、仕方がないから増税するか、とか困ったことになる。このバランスをどうやって取っていくのかは、借金の残高が多くなればなるほど、政治家にとって舵取りが難しくなり、国民に対して厳しい選択を迫ることになる。それは緩やかなインフレでもそのようになる。

3.社会保障の給付と財源の見通し


厚労省は2012年に「社会保障に係る給付の将来推計」を出した。2015年度の社会保障費は、資料2頁の表の約120兆円で、その金額が25年度に1.25倍の150兆円になる。その内で最も多いのが年金だが、25年度になってもさほど増えない。65歳以上の人口があまり増えないからだ。増えるのは医療と介護で、実は、医療と介護は75歳以上で増える(3頁の図表参照)。1人当たり医療費は、64歳以下では平均18万円だが、65歳~74歳では55.4万円、75歳以上では90.7万円に跳ね上がる。これは人間の宿命で老いれば病弱になるという面もある。

介護は、基本的には65歳以上が認定を受けてはじめてサービスが受けられるもので、65~74歳までの介護費の平均は年間5.5万円で、75歳以上の平均は53.2万円と約10倍の差がある。これもある程度は仕方のないことだが、団塊世代の方が75歳以上になる2025年以降にこの費用の増大が予測されるので、その財源をしっかり工面しないといけない。給付をうまく重点化し、健康を維持しながら節約できる方法を考えて負担を軽くしていくことは重要だ。

2018年3月会報土居先生(社会保障1)

4.社会保障各論

1)医療制度

「後期高齢者医療制度」が2008年度から導入された。変わったのは75歳以上の人の仕組み。2007年度までは「老人保健制度」があり、その制度では、子供と同居している高齢者は自分で身銭を切って保険料を払わなくて良かった。ただし高齢者が独立して自活している場合には、自分で「国民健康保険」等に入って保険料を払わなければならない。

つまり2007年度までは、同じ75歳以上で、保険料を払う人と、払わなくても良い人とがいた。そこで、新制度では、同じ75歳以上は、子供と同居しようがしまいが一律に新設の「後期高齢者医療保険」に加入して保険料を払ってもらう仕組みに変えた。その結果、2007年度までは払わなかった人が、新制度では払わなければならなくなった。しかし、75歳以上が全員平等に保険料を負担することになるのであるから、その点は理解して頂かなければならない。

2)介護保険

財源:基本的には要介護認定を受けてからでないとこのサービスは受けられない。問題は介護保険のお金をどうやって皆で支え合っていくのかになる。利用者が自己負担する部分は基本的には1割で、残りの9割は税金と保険料とで賄われていて、それが4頁の円グラフに示したように、税金と保険料とがちょうど半々になっている。

介護保険の場合、65歳以上が加入するのが第1号保険、第2号保険は40~64歳までが加入する。ただし第2号の方は原則として要介護認定は受けられない。後天的な障害を負った方は受けることができる。ところで、もしもこの介護サービスの費用を65歳以上だけで賄えとなると、相当に高い保険料を払ってもらわなければならなくなる。

いまでも2015~2017年度の全国平均は月に5550円前後の保険料だ。仮に第2号に該当する人の保険料をゼロにしたなら円グラフから想像されるように、第1号に該当する65歳以上の保険料が、いまの倍以上の額になる。そこで40~64歳までの方には人生の先輩を支えてもらうということで、自分が介護サービスを受けることはないのだが、この保険料を負担してもらうことにした。だから40歳以上に保険料を払って頂いて、この介護保険が支えられていることになる。

介護サービスの重点化:要介護認定をうけると、要支援1~2、要介護1~5に分類されるが、この要支援と要介護の意味は異なる。要支援も要介護も在宅でのサービス(掃除や調理など)はどちらもやることは同じで、共に1割自己負担。一見すると両者のやってることは同じだが、その意味は違う。要介護は手助けがないと生活に支障があるということでサービスを提供するが、要支援は自立支援、重度化予防という大義名分でやっている。

簡単な掃除などは自分自身でもできるし、重度化を防ぐためにもご自身でされた方が良い場合もある。要支援に対するサービスを重度化予防の目的で、ご自身にも簡単な掃除などはしてもらうようにし、ボランティアの方がたくさん待機しているような市町村ならば、要支援の方々の掃除のお手伝いなどは、その方たちにしてもらうとかして、税金や保険料をつぎ込まなくても介護サービスはできる。

3)年金制度

年金制度は、2015年10月に共済年金と厚生年金とが統合されて「厚生年金」となり、その上に「企業年金」とか民間の「個人年金」とかが重なる制度になっている。年金の仕組みは、実は2004年に大きく変わった。その中で、われわれに特に大きく影響するのが「マクロ経済スライド」の導入だ。既に年金をもらっている人は、現役時代に納めた保険料を基に年金を受け取っているので、その部分は変わらない。ただ給付額をどのように調整するのかがポイント。

結局、少子化が予想以上に進んでしまったので、このまま年金の給付を維持し続けると、若い人たちの保険料は毎年のようにどんどん上がって行く。政府は2004年に、2018年度以降の保険料を上げないことにした。そこで今度は、収入が年金保険料で、その収入をこれ以上増やさないということを意味するので、その収入の丈(タケ)に合わせた金額しか給付は出来ない。基本は少子化のペースに合わせながら、給付を下げさせてほしいというのが「マクロ経済スライド」。

一方、年金は、若いときに払った保険料が紐付いたかのように戻ってきているのだと思っている人もおるかも知れないが、あいにくそれはもうそうではない。自分の老後のために払った保険料の部分が紐付いたかのようにして戻ってくる仕組みを「積み立て方式」というが、それは、少子化が予想以上に進んでしまったのでもうできない。実は、給付は、かなりいま納めていただいている保険料や税金から直接賄われているような状態に近くなっている。確かにいま120兆円程度の年金の積立金はあるが、その一部を将来の若い人たちの保険料が上がるのを抑制するために使わせてほしい。そして100年後にはその積立金をほぼ使いつくすようにしたいと言ったのが2004年の「有限均衡方式」。

2004年以前は、まず給付ありきで、その給付に必要な保険料をいくらにするかを問題にしてきた。そして、5年に1回それを見直してきたが、その度に予想が外れたという結果を毎回繰り返してきた。そこで今度は発想を変えて、2004年から、「確定給付型」から「確定拠出型」に年金制度を変更した。もちろん全くもらえないというようなことはなく、その都度の、2025年なら2025年の、若い人たちの賃金に比べると半分ぐらいの給付額になる。いずれにせよ、財源は確保しないと社会保障は維持していけない。

5.今後の税制の行方

所得税と消費税のバランス:社会保障の財源は税金になるが、税金はどこからでも取れるものではない。この税金の取り方は、代表的には所得税と消費税になるが、両者は長所短所が逆になっているので、うまくバランスを取っていく必要がある。所得税は上げすぎると経済の活力が失われるのでほどほどにして消費税に頼らざるを得ない。かと言って、消費税に頼りすぎれば低所得者層の負担が重くなってしまう。両者をどういう風にうまくバランスさせながら税金を集めていくのかが問われる。
                              2018年3月会報土居先生(消費税1)

消費税とどう付き合うか:国民の間には消費税の増税アレルギー(抵抗)が強い。消費税を上げると景気が悪くなるといわれる。一時的にはそうかも知れないが、長きにわたってそうなのかというと、決してそんなことはない。ヨーロッパ諸国は、5頁の図表のように、消費税は20%前後と高いが、実質経済成長率は多くが3~5%と高い率を誇っている。少々乱暴な言い方をすれば、消費税が少々上がってもへこたれないような経済構造を日本でもしっかり築いて行くことが大事なのではないか。特にデフレとの関係もあると思うが、自分の会社で作っている品物を値上げ出来ないというジレンマがある。せっかく良い物を作る力はあり、自信はもっているけれども高い値段で売ると売れ行きが悪くなるかもしれないと考えて萎縮してしまう。

一番イメージしやすいのは、ヨーロッパ諸国発のブランド品。魅力あると思う人は高くても買う。ああいう精神で日本も行くのが良いのではないか。ヨーロッパではそうではなく、彼らはじわじわと消費税を上げてきたが、決して経済はへこたれることなくやってきた。日本もその発想を活用すれば消費税が少しぐらい上がっても経済はやっていけるのではないか。

             2018年3月会報土居先生4

Q&A


Q:経済成長も財政の歳入も共に望めないとなると、「出ずるを制す」歳出を削らなければいけない。ところが民主国家(日本)では選挙の関係もあって国民に不利益な政策は実行できない(歳出は削れない)。その点の、先生のお考えをお聞かせ下さい。

A:無駄な支出を削るのは、日頃の掃除を、家の掃除と同じように、不断の努力でやっていかなければならない。ただ、歳出の主たるものは社会保障費なので、それをどう抑制していくのかは、これからの政治家に求められるところだと思います。例えば、医療費の中の薬代には10兆円も使われている。その中には、多剤投与、例えば同時に10種類以上もの薬を服用している患者が薬代の4割を使っている。そしてその内の1~2割の患者は飲み合わせが悪くて逆に健康を害しているという話もある。この多剤投与を改善するだけでも大きな削減が期待されます。こう言ったところを、政治家も丁寧に国民に説明して理解を求めていく必要があると思います。  (文責:横塚紘一)
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