学習会要旨

◎6月10日(土)学習会の要旨                           
 
日 時:6月10日(土) 13:30~15:30                             
場 所:東京経済大学 2号館 B301教室  
テーマ:「高齢者の生活問題と社会福祉・社会保障サービス
~ 一人暮らし高齢者の増加を背景として」                                          
講 師:奥山 正司 先生(東京経済大学名誉教授)
出席者:197名(会員:男性139名、女性50名、
          非会員:男性3名、女性5名)
7月会報奥山先生3

【講演要旨】

〇はじめに

本題に入る前に、10日程前に韓国・ソウルにて開催された「高齢者差別の実態とその対応策」の招聘国際シンポジウム(英・仏・独・米・シンガポール他)に出席してきた。懇親会の席上、韓国社会の自殺のことが話題になっていたので、ここではそれを導入として取り上げることにする。その後、本題である「日本における後期高齢者(75歳以上)と一人暮らし高齢者」に焦点をおき、彼らの生活問題を事例的に述べ、その対応策を明らかにしたい。
                                5月会報高齢化社会1

なお、レジメのデータは、断りがない限り総務省及び厚生労働省の資料を加工して作成したもの及び当時調査研究に委員として参加し、その時に分析した資料である。

〇報告内容

10年ほど前から、韓国では生活不安が原因となって、高齢者の自殺率だけでなく若者の自殺率も、世界のトップクラスを持続している。ソウル市内の漢(ハン)江(ガン)にかかる麻浦大橋からの投身自殺が5年間で200件を超えるほどにのぼっている。韓国政府やソウル市ではその対策として、橋の欄干から電話ができるホットラインを設置したり(心理カウンセラーが相談に乗るシステム)、橋に「慰めの銅像」を設置したり、欄干に家族、愛・友人などをテーマにした写真を貼ったりして、生きる希望を与えるメッセージを発信している。それに対する市民の対応は、まちまちであり、その効果は道半ばである。
7月会報朝浦大橋1

つぎに高齢者の生活問題に話題を変えるが、東アジア(日本・中国・韓国)の中で、日本はどのような位置づけができるのか、まず人口学的な側面から検討していきたい。

日本・韓国・中国の出生率の低下と老年人口の増加、労働力人口の減少については、日本が先行し、韓国と中国が後を追っている。老年人口が14%以上になった時期は、日本では1990~95年だったが、韓国では2015~20年、中国では2025~30年頃と予想されている。日本の高齢化は西欧に比較すると後発国であるが、高齢化するまでが短期間で急速であるというのが特徴である。しかし、韓国と中国は日本より後発であるが、更により短期間に高齢化を迎える勢いである。高齢化という現象は労働力人口の減少と老人を養う費用の増加を意味することから、それは大きな社会問題となっている。
                         7月会報出生率推移1

高齢者の生活問題は単に身体的側面(疾病、要介護など)ばかりでなく、精神的(不安、孤独・孤立感の増加、孤立・孤独死、認知症の増加、無為=生きがいの喪失)、経済的(収入の減少、年金による生活)、社会関係的(配偶者の死、身内友人等との関係縮小)などの問題を抱えている。こうした現象は、中年期の生活と密接に関連しているので、東京都では、同一人物を長年にわたり継続的な追跡調査をしている。

日本の年少人口100人に対する高齢者の割合は1950年には14人だったが、2015年には214人と、こちらも高齢者の数が大幅に上回っている。2015年には、就労人口100人が44.2人の高齢者を養っていたが、2030年には54.4人、2060年には78.4人を養う社会になると見込まれている。
7月会報100歳以上人口推移1

健康・長寿であることはこの上なくいいことであるが、100歳以上の人口の動きによってその動きを垣間見ることができる。すなわち、1963年(この年、老人福祉法ができた)には153人だったが、2016年には65,692人となった。人数は女性が圧倒的に多い。また、2013年の平均余命は男性が80.21歳、女性は86.61歳になり、結婚した場合の夫婦がともに生存している期間も長くなってきている。ところが、余命の男女差はますます開いてきており、結婚時の男女の年齢差が平均して3歳であることを加えると、女の一人暮らしの期間が平均して10年ほどにもなる。また、90歳ぐらいまで生きる人が増えていることから、この期間を健康で生きることがより重要になってくる。

昭和40年代には老人の7~8割が子供世帯と同居していたが、現在は老人の単独・夫婦のみの暮らしが70%近くになっている。それは、日本の家族形態や制度が長子相続・同居(直系家族)から夫婦家族の欧米型に移行しているということである。日本は欧米型のプライバシー重視のメリットを生かそうとしてきたが、介護に直面するとサポート体制が弱体化し、近年大きな課題となっている。

ところで、2000年から2009年の間に、介護保険認定で症状の軽い要介護1と要支援1、2の人が140%増加した。また、施設に入居資格のある要介護3以上が133%も増加している。国は従来介護保険でカバーしていた要支援1、2を昨年から市町村に引き渡したため、これが市町村の大きな負担となっている。要介護認定率は80~84歳以降に増えるので、今後この問題はさらに大きくなる。

認知症高齢者(要介護2以上)は2015年には345万人だったが、2025年には470万人に達すると見込まれている。要介護2の基準は「日常生活に支障はあるが生活できないわけではない人」であるが、それ以上の基準の認知症高齢者の圧倒的多数が自宅居住者である。施設はまだ多くの高齢者を収容することができない状態である。

〇生活問題の具体的事例

高齢者世帯の所得について言えば、年間200万円以下の世帯が多い。特に、一人暮らし女性は低所得の傾向が高い。
日・韓・中の一人暮らし分布表からは、日本と他の2国との違いが見て取れる。日本では韓・中とは異なり、都市部に住む一人暮らし高齢者が多い。国勢調査によると、この傾向は都心部で著しく、新宿区、港区、豊島区などでは65歳以上の約45%が一人暮らしである。

一方、過疎地域(愛媛県久万高原町旧柳谷村)の例では、約90%が一人暮らし又は高齢夫婦のみの世帯である。過疎地では軽トラックによる巡回販売などが行われているが、十分な回数ではない。大都市部では個人商店が廃業し、エレベーター無しのマンション等に居住する高齢者が買い物に不自由する事態になっている。いわゆる買い物難民である。

また、別居している親子の対面接触(交流)が比較的多い欧米に比べて、日本では月一回、年数回、あるいは盆と正月程度と、接触頻度が少ない現実があり、孤立・孤独の問題につながっている。

ここで孤立と孤独の概念を紹介する。孤独(loneliness)とは主観的概念で「寂しさ」及び「仲間がいないこと」。孤立(isolation)とは客観的な概念で、他者と物理的・空間的に隔絶している状態をいう。孤独死・孤立死の概念は不明瞭で、その定義は都内でも地区によって異なることもある。

1960年代につくられた最も初期の大規模団地である松戸市常盤平団地では、59歳の一人暮らしの男性の死が3年経って発見された例がある。近隣との関わりがなく、コミュニティ機能が喪失しているため、公共料金の銀行口座の引き落としが不能になるまで、誰も気が付かなかったのである。孤独死は60代前半の男性に際立って多い。離婚・未婚・失業などが重なって、外出を始め社会的活動を控えて、孤立している実態が多い。女性は4分の3が70歳以上の寡婦が中心である。
7月会報1老人ホーム2
 
施設入所に関しては、特別養護老人ホームが不足しているため、入居待機者は全国的で52.4万人、東京都だけでも5万人いる(2014年)。そこで、貧困層の高齢者はやむを得ず簡易宿泊所に似ているサービス付き高齢者住宅に入居しているケースが多い。川崎市の劣悪な宿泊所の火事により、多数の高齢者の死者が出たことは記憶に新しい。このケースでは、入居者74名中70名が生活保護者であった。

一方、東京都多摩地域の一部地域では、特養などで空き室がぽつぽつみられるという。その理由は、入所を希望している特養待機者に空いた知らせを伝えると、家族や本人が断ってくるケースがみられるからであるという(多摩地区の介護保険関連の検討会)。その原因は低額な年金では個室に入居できず、利用料金の支払いが無理だとわかったからである。グループホームも月の経費が20万円程度必要な現状では、入居者が限られる。日本の社会保障制度は未だこの程度である。

一方では、施設のための土地が無い杉並区が静岡県に特養を建設したように、離れた県に施設が作られるケースがある。過疎の地方にとっては雇用を生み出すメリットがあるため、東京都へは地方からの申込が多く、杉並区が成功事例になれば、この傾向は今後増加すると思われる。しかし、東京都と受け入れる県両方の許認可権や役割分担が必要になるほか、子どもや友人との接触が困難になり、ノーマライゼーションの原理に逆行している。

〇生活問題への対応

買い物弱者に対しては、身近な場所に店を作る、家まで商品を届ける(スーパー、コンビニ等)、家から人が出かけやすくする、などの対応が考えられる。また、コミュニティとしては、マップなどを作って介護予備軍を把握しておくなど、地域ごとの課題に対応していくことが求められる。

高齢者の住まいの工夫について、日暮里では、共同居住型集合住宅(コレクティブハウス)を作った。建物の下層階には保育園、クリニックなどのテナント、中層階には介護型シニアハウス、高層階には自立型のライフハウスを入れている。若い人の家賃は安くする代わりに、月に1回だけ食事を作り老人にふるまうノルマを課すなどして、世代間扶養のコミュニティを目指している。家族間の関係が希薄になっている現在、このような工夫は他の地域にも広がりつつある。

〇今後の対応策

「住み慣れた自宅や地域で最後まで暮らしたい」そんな高齢者の希望の実現のために、政府は地域包括ケアの実現を目指しているが、私は施設ケアから在宅ケアへの転換が必要になると考えている。北欧では基本的に、施設に入っていても施設という概念を無くそうという方向であるから、入居者が自立して暮らせるような設備になっている。これは人が最後まで生きる力を生み出せるような施策であると思う。

そこで、①元気な高齢者から要介護高齢者までが生活できるよう、地域のなかで継続した対応策を取る。②高所得者も低所得者も入る施設は同じく、老後は貧富の差を無くして平等にサポートしていく。③デンマークなどの北欧社会にみられるように、地域で若い世代と共に生活できるようにすることを基本にコンセプトを据え、高齢者自身も若い世代と一緒に元気で自立できるように心掛ける、ことなどが必要と考える。
                                             7月会報奥山先生4

質疑応答

Q.1 北欧では、日本の高齢者の健康、社会性など、どのような点を注視しているか。
A.1 日本文化そのものに対しては高い評価をしている。しかし、多くの人は、日本の高齢者の施設を知っているわけではないので、昔のイメージ(子が親を扶養する、など)を抱いている人が多いかもしれない。デンマークでは小学校でも少人数のクラスに副担任がいて、落ちこぼれを救うなどの対応をしている。学校でも家庭でも幼い時から自立や個人を尊重して生活している。

Q.2 電話、メール、手紙など、コミュニケーションの手段はいろいろあるが、接触とはどの範囲を言うのか。
A.2 通りすがるだけでは「会う」とは言わない。感情が相互に行き交って初めてコミュニケーションができる。直接会うことや、遠く離れている場合の電話は接触である。メールは高齢者にとってはまだ一般的ではない。

Q.3 人口の減少と高齢化が進んでいるが、一人一人の意見を聞き、議論をし、行政で施策に乗せるような方策はないものか。
A.3 デンマークは小国なので、地域の高齢者代表の発言を高齢者委員会で吸い上げ、個人のニーズを国に届けることが可能になっている。日本でも高齢者組織の代表が、個人が求めているものを代弁するシステムが必要であると思う。(文責 大崎尚子)



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