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学習会の要旨


◎学習会の要旨

日 時:2017年5月20日(土)13:30~15:30 
場 所:東京経済大学 2号館 B301教室
テーマ:「マイナス金利の行方と日本の課題~資本主義の終焉と歴
史の危機」 
講 師:水野 和夫 先生(法政大学法学部教授)                               
出席者:242名(会員:男性165名、女性54名、
         非会員:男性20名、女性3名)                                  


【講演要旨】 

6月会報水野先生1

1. はじめに

望ましい社会システムは、資本主義ではない。それは、現在、日本とドイツだけにみられる新中世主義の原理原則である『より近く、よりゆっくり、より寛容に』ということである。今までは、近代の原理原則の『より遠く、より速く、より合理的に』の三つの原理で動いていた。昔は部下が上司より早く出勤したものだが、今は上司の方が早く会社に出ている。随分変わったものだと思う。

2. 資本主義の終焉

近代社会はあらゆるものを貨幣で換算していく社会になった。特に19、20世紀になると、人間の価値を貨幣で評価するようになった。近代社会は資本主義にほぼ置き換えることができる。中世社会にも資本主義があったが、それはあくまで限られた分野であった。

資本主義は人より資本をよりたくさん集めるシステムで、この400年間うまく機能してきた。機能した結果が今のゼロ金利になっている。21世紀に入ると、預金金利はほぼゼロになり、株は1万円から2万円に上がった。
現在の日本では、株主のROEは8%弱、預金者はゼロ金利になっている。通常はある一定のスプレッドをもって併行して動く。今はそれが崩れて株式投資は有利になり、今の経済政策をやっていれば株式投資が更に有利になるだろう。但し、いつまで持つかは分からない。

今までは『より遠く、より速く、より合理的に』の三つの原理を選択すれば、世の中はうまくいくという前提の『個人は社会よりも先に存在する』即ち、判断能力のある個人が社会より先に存在していたという社会契約論で近代社会は成り立っていた。より遠くというのはより危険な所という意味だ。より合理的というのは地図とコンパスをもってということだ。近代社会は400年。(古代・中世では社会が個人より先に存在することを前提にできあがっていた。こちらの方がはるかに歴史的に長く続いていた)

人間社会は何百年続いていた秩序が崩壊すると、これに対処する方法は二つあって、一つは強化する、もう一つは新しい仕組みを考えることだ。今の日本は今までの仕組みをもっと強化しろという方向で動いている。より合理性を追求すればするほど被害が大きくなる。
                                 6月会報マイナス金利ⅰ

マイナス金利はどうなるか?私は解消しないと思う。将来、見通せる期間においてはゼロ金利が続くだろう。2%のインフレにもならないだろう。今、ゼロ金利は日本とドイツの2ヶ国。ゼロ金利は1200年の過去に遡っても一度もない。
歴史的にみて、世界で一番繁栄している国は金利が低いと言える。金利が高い国は繁栄していない。繁栄しているか、いないかはどう判断するか、それはその国が資本がたくさんあれば繁栄していることになる。

 投資を進めていくと、最後に一番儲からないところが残る。投資が全部行きわたるとゼロ金利になる。日本はこれ以上投資するところがない。それにも関わらず投資をするので最近の例ではアメリカの原子力会社が儲かるということで何千億円で買って決算をしたら逆に6千億の損失が出た。それからオーストラリアの物流会社を儲かるのではと買ったらまた4千億円損失が出た。
 
個人でみるとバラツキがあるが、日本には資本がある。個人だけで1千8百兆円の金融資産があり、土地と家屋で1千兆円。合計2千8百兆円の資産がある。7割の人しか金融資産を持っていないと言われているので、これを加味して計算すると一世帯当たり5~6千万円の金融資産を持っていることになる。これは日銀が各銀行に出させたものだ。相当確度が高い数字だ。

 日本の年金、医療、介護を考えると6千万円もいらないと言われている。銀行の人に訊くと年金は1日1万円口座に振り込まれている。毎日1日1万円だと思っている人に限って生涯年金口座の記帳が一度もないし、出金の記録もないそうだ。その人たちが4割ぐらい、いるようだ。これらのお金は相続される。4割の人は年金に頼らず生活していることになる。
 
1年間でお父さん、お母さんからお子さんに40兆円の相続が行われている。1千8百兆円の金融資産のうち1千兆円を60歳以上の人が持っている。相続税として2兆円支払われている。これに土地と家屋を加えると毎年60兆円の相続があることになる。
6月会報ピケティー1

 ピケティのイギリスの指導教官アンソニーは『相続財産は一旦国に返せ』と言っている。こういう過激な発言もある。能力のある個人が存在するのであれば、相続財産は1対1で結びついてはいけない。もう一度お父さんと同じように一から稼いで下さいと言わなければいけない。

 オックスファムの調べでは世界の富裕層8人と下位36億人と所得が同じ。これが1人と72億人の方向に向かっている。近代社会は能力がある人が前提であるので、近代社会は能力のある人が1人しかいないことになる。今の近代社会は言っていることとやっていることは全く違う。

 ピケテイはアメリカのCEOのように普通の人の給料の200~300倍の収入のある人は所得の決まる理論では説明ができないし、レジに手を突っ込んでいるとしか思えないと言っている。ケインズも同じことを言っている。
                                6月会報ケインズ1

 ケインズは1930年の時点で100年後の世界を『我が孫の経済的可能性』というタイトルで論文を出している。その中で『利子生活者が安楽死することはいいことだ』と述べている。
 
今、日本には5万4千のコンビニエンスストアがある。一店舗につき1千世帯という計算だ。セブンイレブンでは毎日1,100人来店。ということは全世帯から毎日コンビニに来ていることになる。もう飽和状態になっている。北海道のセイコマートではこれ以上出店すると隣の店が倒産すると言っている。日本全体でも同じ状況だ。ここでも、もう資本の希少性は存在しない。資本は有り余っている。この現象は7軒に1軒が空き家、食品ロスが1~2割というところにもあらわれている。背後に過剰な生産設備がある。
 
高度成長の時は工場が足りないということで、国債や社債の利回りは8%~10%付いていた。今は0%だからポケットに入れていても、銀行に預けていてもどちらでもいい状況だ。もうこれ以上新しい工場をつくることはない事になっている。ケインズはこういう時にも財産としての貨幣愛を捨てられない人がいると心配していた。そして、半ば犯罪的で半ば病理的な性癖の一つなので精神病院に行ってくださいと言っていた。

3. 日本の課題
 
【より近く、よりゆっくり、より寛容に】の方向に向かっていくのがいいと思う。今までの近代の原理原則を強化すると弊害がいっぱい出て来る。では、その時、資本主義はどうなるか?
 
グローバリゼーションと言うと価値中立的な響きがあり、一つの変容していくプロセスだと言える。一方、グローバリズムはイデオロギーの一つで世界を統一していく考えだ。でも実際はグローバリゼーションと言うのは本当はグローバリズムと言った方がいいと思う。グローバリゼーションは【より遠くに】と言うのが先ず出て来る。これは能力のある個々人が競争をしなければいけないことになるから、自動的に【より速く】と言うことになる。
 
クリントン大統領はグローバリゼーションは後戻りできない現象だと言っていた。昨年トランプとヒラリーが争って、メキシコに壁を造ると言ったり、TPPを即時止めると言った人が選ばれた。これはアメリカ国民はグローバリゼーションの選択を止めたということだ。

 今までの世界秩序はアメリカが世界の警察官をやることで保たれて来た。オバマ大統領は2013年にアメリカは世界の警察官はやらないと言った。それでISが出て来て、益々秩序崩壊に拍車がかかった。つい最近、トランプ大統領はシリアにミサイルを撃ちこんだ。でも、世界の警察官はやらずに、あくまでアメリカファーストであり、アメリカにとって重要なのは中東であり、イスラエルとの関係が大事という考えだ。
 
日本との関係で言えば、アメリカは大陸弾道弾ミサイルはいけないと言っているが、日本は大陸弾道弾でなくても短距離ミサイルでも日本に到達するが、トランプ大統領はそれは知らないということになる。アメリカに飛んで来るミサイルだけはいけないことになる。結局はアメリカファーストになる。クリントン大統領もブッシュ大統領も心の中ではアメリカファースト。それは、世界秩序を守ることがアメリカファーストになっていたということだった。慈善事業でやっていたのではない。今は、世界秩序を守ることがアメリカファーストにならないと思っているのだろう。
6月会報トランプ大統領

 トランプ大統領の経済政策はアメリカの雇用だけだ。アメリカはそれぐらい追い込まれている。外交政策ではイギリス重視。イギリスのEU離脱を素晴らしいとトランプ大統領は言っているし、EUはドイツの乗り物だとも言っている。また。ドイツの移民政策は悪い政策だと言っている。これから、アメリカとイギリスは益々仲良くなっていくと思う。

 アメリカとイギリスは海の国だ。海の国は世界秩序を維持することで一番メリットがある国だ。海を支配すれば大陸も支配できる。ナポレオンがイギリスと戦った時、イギリスに海上封鎖をされて負けたことがあった。しかし、EUのような大きなサイズになったら、イギリスは海上封鎖はできない。EUができた時点でイギリスは居心地が悪かった。イギリスはドゴール大統領が亡くなってから、やっと申請が認められた。英国は独仏が何を考えているかを知るために加盟したと言われている。

今回のイギリスの行動は東欧から移民がいっぱい来て、イギリスの雇用が耐えられないためにおきた。イギリスもこれから雇用、雇用になっていく。トランプ大統領とイギリスのEU離脱は再び陸の国と海の国の戦いが始まったということだ。ユーラシア大陸の国は全て陸の国だ。海の国はオランダ、イギリス、アメリカだ。日本も海の国に入る。今回の英国の離脱は独仏は本当は喜んでいると思う。今までは海の国に渋々従って来たがこれからはそうはしないというのがEUを創った目的だ。日本は日・独・伊三国同盟で陸の国になり負けてしまった。20世紀は海の時代だったので、その前の日英同盟は日本にとっていい選択だった。
 
アメリカが世界の警察官を降りてから、事実上、海の時代は終わった。終わった方に日本が就くのは余りいい選択ではないが、急にアメリカに冷たくするとトランプ大統領に叱られるからすぐ離れられないが、陸の同盟も水面下でやる。こういう時代は二枚舌、三枚舌を使わないといけない。中国と急にやれば日本はどうしてしまったかということになる。遠いがドイツと同盟を結ぶ。具体的にはEUに加盟申請する。そして、日本もこれから陸の時代になるかもしれないと考えているというメッセージを送っておくのも必要だ。
                                     6月会報カールシュミット1
 
1920年代ワイマール共和国の政治学の第一人者のカール・シュミットは世界史は陸と海との戦いだという定義付けをしている。陸と海が戦った時に世界秩序が混乱する。

 何故陸と海が戦うのか?それは富を蒐集するためということになる。富を蒐集する主体が陸の国なのか、海の国なのかで全面衝突した時に大きな争いになることになる。世界史とは富の蒐集をめぐる戦いだ。

 最初は土地を蒐集。土地の蒐集は陸の国しかできない。海軍を持っていても上陸しない限り土地を蒐集できない。資本の概念ができてから海の国が強くなった。資本は土地に縛られないから、貨幣が資本に変わっていった。海の国が資本を発見した。実際は資本を発見したのはイタリアだ。イタリアも中世の時にはベネチアは海の国だった。イタリアは資本を集めていたが、スペインが強くて、ごくイタリアの都市国家だけでやっている程度だったので、全体は陸の国の時代だった。
 
ケインズの言っていたゼロ金利になれば、もう資本をこれ以上集めることはないという考えが正しければ、もう海の国の時代は終わった。トランプが大統領に成るべくして成った。

 グローバリゼーションは多くの敗者を生み出した。アメリカの男性は1973年の所得がピークだ。年功序列ではないから、73年に就職した人は、それに45歳ぐらい足すとその人はもう引退している。彼等の50%の人が新入社員の時の方が給料が良かったと言っている。これはアメリカの商務省の統計だ。一生涯働いても新卒の時よりも退職した時の方が貧しくなっているのが現実だ。73年からずっと不満がたまっている。

 1999年から10万人当たりの死亡者数でみると、アメリカの白人は今、平均寿命が下がり始めている。原因はアル中、薬中、自殺だ。これは多分重複しているだろう。自殺する人と薬中の人が99年~2011年にかけて増えている。これがアメリカで発表されて大問題になった。日本も自殺者が2万人を超えて非常に高いので問題にならないといけないと思う。
 
トランプ大統領はアメリカは白人が創ったという意識がある。このままいくとアメリカはヒスパニックの国になると考えている。彼らは出生率も高い。2040年ぐらいになると白人が50%を切ると言われている(現在は60%)。トランプ大統領はメキシコ国境沿いに壁を造らないといけないと考えるほど追い込まれている。

 日本も賃金は下がり続けている。97年をピークにして平均賃金は下がっている。日本の場合は正規の人の給料は上がっているが、賃金が正規の人の半分の非正規の人の割合が40%になったので、全部ひっくるめて考えると下がっていることになる。非正規の人に犠牲を強いている社会になっている。基本的にアメリカと同じだ。しかし、アメリカの方が民主主義が機能しているように思う。
 
アメリカはニクソン大統領の時から変だ。歴史の危機はいつも弾劾から始まる。今回トランプ大統領が弾劾されても少しもおかしくないと思う。皆が不平・不満を持っているとやり場をどこに向けるか、権力者を引きずり降ろす。気がせいせいしたということになる。これは茶番劇だが、皆はこの茶番劇の中に希望を見出す。引きずり降ろすと、次はもっとひどい人が出て来るのが歴史の危機の典型的なパターンだ。

 今後どうなるか分からない。選挙の時、成長戦略を出しているのは一つの政党しかないので国民は他に選びようがない。アメリカはトランプが出て来て選びようがあった。別の代替案をトランプが提示した。日本もトランプのような人が出ないより、出た方がましだ。
 6月会報ソクラテス1

今日の私の結論は、【わからないand それがどうしたのか】ということになる。それじゃ、今日のセミナーの意味がないのではないのかと考えられるかも。ドイツの哲学者で将来どうなるか分からないと言っていた先生がいた。アドルノという有名な哲学者だ。いつも将来どうなるか分からないという結論で締めくくっていた。会場からそれじゃ困ると言う質問が出て来たそうだ。でも、話は【それがどうしたのですか】という答えで終わったそうだ。アドルノが分からないのに、どうして私が分かるのか。今後のありかたとして、この道しかないと言ってやる方法もあるし、ソクラテスが言った、もっといいことがあるんだ、という考えもある。常にもっといいことがある筈だと考え続けて欲しい。日本は分かれ道に来ているのではないか。


4. 質疑応答

6月会報学習会風景1

Q1:日銀のマイナス金利策で金利が下がっている。年金生活者として不安を感じる。これは2%のインフレ目標に効果があるのか?
A1:全く効果はないと思う。物価が2%上がるということは、1.5%ぐらい黒田総裁の時に上がった時がある。それは全部輸入物価の上昇、ガソリンとか原油価格が上がった時だ。生活している人は消費者物価が1.5%で、もうすぐ2%になる時にみんな喜んだかというとガソリン価格が上がって、バターの値段も上がって、食パンの値段も上がって、みんな困った、困ったと言っている時に物価が上がる。

今のように原油価格が下がって、円も110円ぐらいになって、食パンの値段とかバターもスーパーに出回っているということになるとまあほっとする。今、消費者物価は0%。そもそも日銀が2%にするという目標設定自体が間違っている。むしろ0%の方が国民生活には価格が上がる、下がるを心配せずいい。消費者は必要なものだけを今買えばいい。

グリーンスパンだって金融政策の究極の目標は消費者や企業経営者が自分の作っているもの、自分の買いたいものを値段を気にせず、企業経営者は必要な数量だけ作る。消費者が欲しいと思っている数量だけ作る。消費者は必要なものだけ買う。それが一番望ましい社会だと言っていた。今は国内で物価が上がれば、海外から品物が入って来る。世界中であらゆる物が過剰になっている。地球全体で作り過ぎだ。唯一の効果は円安になって株が上がっているだけだ。これから株が上がるかは別問題だが。


Q2:ビットコインをどう考えているか?
A2:
                                  6月会報ビットコイン1

基本的にまずいと思っている。理由はそもそもニクソン大統領の時にドルと金のリンクを切り離したとことが問題だ。ドルというのは世界通貨。その世界通貨は必ず金1オンス35ドルかなんかで決められていた。だからドルは不動の価値を持っていた。近代社会は貨幣価値で全部評価するので、その貨幣価値が動いては駄目だ。動いたらいけないドルを動かしたところから混乱が始まった。ビットコインはドル以上に変動する。益々何を信じたらいいか分からないという社会になった。

今やらないといけないのは何かを中心に置かないといけない。秩序は必ず中心にみんなが尊敬できるものを置いて,社会を創って行きましょうと言うことだ。昔はローマ皇帝を中心に置いたり、キリスト教を中心に置いたり、近代社会は人間を置いて、人間は貨幣で評価するという前提がある。ビットコインなんかで評価すると大変なことになる。ビットコインは益々事態を悪化させるという方向に結びつくのでは。せめて通貨価値の統一、固定するか、バンドにするかだ。ユーロのやり方は寛容主義だ。通貨価値を固定するとか平等にする方がいいと思う。                            (文責 中村俊雄)




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