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学習会の要旨

◎4月9日学習会の要旨                            5月会報植木先生2
        
日 時:4月9日(土) 13:30~15:30
場 所:東京経済大学 2号館 B301教室 
テーマ:「安全保障と集団的自衛権-平和のための戦争論」 
講 師:植木 千可子 先生 (早稲田大学大学院アジア
太平洋研究科教授)
出席者:230名(会員:男性168名、女性53名        
        非会員:男性9名)   


【講演要旨】

1.はじめに

今日は平和のための戦争論という題で話をする。これは昨年、ちくま新書から出した本の書名と同じであり、本の中に書いた話の中心を紹介したい。そして、その後に起きた問題、例えば南シナ海で起こっている問題について、この本に書いたことに照らして、どのようなことが言えるかという話ができればと思う。

昨年7月に学習会講師を依頼されたその頃、安全保障関連法案が国会で審議されていた。その後、9月に法律は成立し、今年3月に施行された。まさしく、この間に日本は大きく動いたと思っている。
                         横須賀3

今日の話の順序について触れておきたい。最初に、今、世界で何が起こっているのだろうか?ということを紹介したい。次に、そもそも平和の仕組み、戦争の仕組みとはどういうものなのかについて話す。安倍首相は安全保障関連法は抑止のためであり、戦争するためのものでないと何度も言っているが、抑止の仕組みとはどういうものなのか。どうすれば抑止が成功するかの話をしたい。
そして、実際の事例として、南シナ海の問題について考える。最近、南シナ海で米中の対立が増し、日本もアメリカに協力すると表明しているが、そもそも南シナ海の争いは何をめぐる争いなのか、また、何を守ろうとしているのか。このような話をした後で、それでは、平和のために何ができるかということについて考えていきたい。 

2.世界に訪れる変化

第一にアメリカの影響力が低下していることが挙げられる。原因はいくつか考えられるが、国内の要因としては、一つにはこれは米国の財政難がある。実際は日本の方が国内総生産(GDP)に占める国の借金の割合が高いが、米国は議会が財政健全化をしろと言っており、2020年までに5000億ドルの国防費の削減を連邦政府は議会に約束している。

もう一つは厭戦気分。オバマ大統領も「アメリカは世界の警察官でない」と言っている。また、アメリカは国内問題に専念すべきだと言う意見に賛成の人が2013年には50%以上を超えている。(1960年代にはこういう考え方の人は20%ぐらいしかいなかった)内向きの世論と財政難が合わさって国際的な問題には介入をしないでおこうという傾向が出てきている。

国際的な要因としては、中国の台頭がある。ある指標によると、アメリカのGDPは2014年(2015年ともいわれているが)に中国に抜かれたという話も出ている。ただし、ドルと人民元での換算レートをどうするかによって変わってくるが。更に中国は今後も成長し続けると予測されているので、経済的には中国は世界第一の経済国になる。一方、日本は人口・世帯数の減少で経済は縮小に向かわざるを得ない。日本はだいぶん離れて3番目。いずれはインドにも抜かれると予想されている。

けれども、中国は世界のリーダーになれるわけではない。一つには国内の問題が山積している。特に1990年代から国内の格差が大きくなっている。貴州のような貧しいところと北京、上海のような沿海部との格差が大きい。90年代にユーゴスラビアで内戦があったが、中国の格差はその頃のユーゴより大きい。何とか格差をなくしていかなければならない。現在、格差は広がってはいないが解消はしていないし、不公平感が増している。

また、農民の問題がある。中国13億の人口のうち7億以上農民だと言われているが、農業の生産性は低く、潤っている沿海部と較べて生活が厳しい。農民は北京や上海に出稼ぎに行かざるを得ないという問題もある。さらに、環境の問題もあるし、これからの中国経済の不透明感など色々な問題がある。中国はよく自分達は世界で一番の発展途上国だと言っていて、急にああしろ、こうしろと言われてもできないと主張している。結論的には中国は国内問題で手がいっぱいだと思っている。まだまだ外まで面倒を見る余力はない。

習近平国家主席は、最近スピーチなどで、国際制度について不満を持っていると述べている。今の国際制度は中国にとってプラスではない。アメリカには良いかも知れないが中国にとっては公平なものではない。国際的な制度が変わらない限り中華民族の偉大なる復興はない、という言い方をしている。現在の国際社会の中で、リーダーになって、そこで汗をかくような余力はなさそうだということになる。

そうなるとアメリカの力が落ち、中国がリーダーの役割を担わなければ、それぞれの国が内向きになり、世界のことにかまわなくなる。ヨーロッパ諸国も日本も同様だ。その結果、小規模紛争が増加することになる。

アメリカは軍事的・財政的にコストがあまりかからないようなもの、あるいは、アメリカの国益が侵される場合にだけ、選択的に関与するようになる。これから中国と協力する必要性は増大する。オバマ大統領は2014年に北京で開催されたAPECの首脳会議の際に米中二国だけで解決できる問題は多くない。逆に米中が協力しなければ解決できない問題は多くあると述べている。協力すれば解決できる問題があるとも言っている。しかし、協力の必要性が増す一方で、中国との対立も増している。互いに戦略的不信感がある。

3.アジアの動向

今までは米国は日本を間違いなく守ってくれたが、これからは選択的に関与するようになる可能性がある。日本はアメリカにとって重要な同盟国であるので心配はないかもしれないが、この地域のフィリピンは同盟のような関係があるが、その他の同盟のない国ではどれだけ米国が関心を持ってくれるのか、関与してくれるのか疑問が起こって来ている。アメリカが何もしない、守らないと思う国が出てくることも考えられるし、自分の力で守らないといけないと思う国が出てきて、軍備を増強し、それが周りの国を不安にさせることも考えられる。

最近は米・中・日は対立することも多いが、1970年代以降キッシンジャーが中国を極秘裏に訪問、その後ニクソン大統領が中国を訪問し、国交正常化が始まった。日本も田中角栄首相が訪中し、国交正常化に向かった。冷戦時代、70年代、80年代には米・中・日はソ連に対抗するため協力していた時代だった。それが、今では、戦略的不信が増している。

戦略的不信が増す傾向が続けば、だんだん、アジアは米vs.中、あるいは日・米vs.中との競争の舞台になる恐れがある。日本は経済的にこれからは明るくない。人口の減少はすでに始まっているが、2019年をピークに世帯数も減少に転じると予想されている。耐久消費財は世帯当たりで買うので日本の経済規模は放っておけば縮小し影響力も低下するかもしれない。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は東アジア地域統合に向けた動きの中で、これまで中心になっていた。中心が大国だと誰がリーダーになるかということで競争が起きる。それに対して、ASEANが中心になることによって、誰がリーダーだという話にならず落ち着きがよかった。米国、中国、日本の対立が増すと、ASEAN加盟国は誰につくかを選択しないといけない場面が出てくるかも分からない。そうなると中心性、一体性に変化の可能性が出てくるかもしれない。

ASEANという緩衝材がなくなると、日米中の関係はさらに悪化することが心配される。そうなれば、この地域での競争激化が考えられる。世界にこのような大きな変化が訪れ、不安になることが心配されている。このままの状況ではまずいので何かしないといけないと言うことでは、安全保障の専門家の意見は一致している。

4.米中関係の動向

アメリカが影響力の低下を止めるために出した答えが、リバランス戦略(バランスを再度バランスするということ)だ。アメリカは2001年9月の同時多発テロとの戦いに勢力を注いできた。その結果、国外では中東や中央アジアに専念していた。そこからアジアに回帰する戦略を2011年ぐらいから、正式には2012年から取っている。これをリバランス戦略と呼んでいる。

一方、中国は西進戦略を取っている。これは東進すれば日本や米国とぶつかるので、中央アジア、中東、アフリカへ行って力を蓄えようという戦略だ。そして、力を蓄えてアジアに戻って来ようと考えていると中国の専門家たちは言っている。

これまで中国は「韜光養晦戦略」を取ってきた。これは鄧小平が言ったもので、日本で言えば「能ある鷹は爪隠す」というような意味だ。力のないうちは協調的に行動せよということだ。最近これを日本に対してやるのは意味がないという意見が出て来ている。つまり、爪を見せて主張する戦略に転換したのではないかという意味だ。韜光養晦戦略を中国が維持しているのは、アメリカに対してだけではないかと言われている。

5.米国のアジア戦略 リバランス(ピボット)
5月会報星条旗1

アメリカのリバランス戦略はピボット戦略とも呼ばれているが、ピボットとは軸を中心に回すという意味で、中東に置いていた足をアジアに移すということだ。これはヒラリー・クリントンが国務長官の時に提唱したものだ。

戦略の第一の目的は地域の安定、特に東アジアの安定だ。アメリカはアジアを世界経済を引っ張っている重要な地域だと考えている。東アジア地域はアメリカにとって経済的に重要だと言う認識だ。

第二の目的は米国中心の地域安全保障枠組みを、遠い将来のことだがつくりたいと考えている。
アメリカがこの地域で持っている同盟は二国間として日・米、米・韓、米・豪がある。この二国間同盟の同盟国をネットワークで結ぼうとしている。例えば、二国間同盟の日・米にオーストラリア、韓国を入れるような枠組みをつくろうとしている。そうして、長期的には、そこに中国を入れようという戦略を米国は持っている。

第三の目的として、米国中心の高いレベルの自由貿易を目指す地域経済統合を進めていきたいと考えている。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)のような関税撤廃の例外品目を少なくした自由貿易を進め、そこに入った国が成長し、中国がそれを見て入りたいと思うようにさせたいと考えている。そうして大きくなってもルールに従う中国にするという大きな絵を描いている。現状では中国はTPPに入るほど経済が発展していない。入りたければ、構造改革し、制度や法律を変えないといけない。

リバランス戦略の安全保障上の目的としては、1)紛争を抑止・予防すること。2)経済的利益を守ること、3)中国の政治的安定をはかり、法を守る国になって、いずれ民主化するようにするということが挙げられる。

6.米国の対中戦略

リバランス戦略を実行する手段としては、

第一に抑止の方法として同盟国のネットワークをつくる。日・米・韓の安全保障協力はすでに進んでおり、例えば、日・米・韓が北朝鮮のミサイルに対してミサイル防衛即ちBMDで互いに協力する態勢を進めていることなどが、この例の一つだ。日・米・豪についても連携を深めて、紛争を抑止していく考えを持っている。

第二は縛りつけ(ルールや組織内に縛りつける)。英語ではBinding(バインデイング)と言う。これは国際法とか国際組織に入れてその中で縛りつけるという意味だ。組織としては国際機関、TPPのような枠組みに縛りつけることを指す。TPPのように先に実を挙げ、やがて中国を取り込む戦略だ。第三は米・中の二国間外交による関与(engagement)ということになる。

7.中国の最近の動き
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中国の最近の動きには,周辺国の懸念を招く行動が見られる。2013年には、一方的にADIZ(防空識別圏)を東シナ海に設定。尖閣諸島の上空を含めて設定した。地域を不安定化させるので問題になった。


2014年には南シナ海の暗礁を埋め立て滑走路を造っているなどの活動が目立ってきた。同じく2014年には中国の戦闘機が日、米の船や戦闘機に異常接近した。国際海洋法条約に基づく排他的経済水域(EEZ)は経済活動は制限しているが、航行と上空飛行の自由は保証されている。軍の船や航空機については公海と同じ扱いだ。ところが、中国は自国の領海と同じ扱いをして、外国軍の活動を制限するような動きを見せている。公海に対する中国の認識とアメリカと日本の考え方が合っていない。

中国がインドやブラジルと一緒になって作った新開発銀行や中国が中心に作ったAIIB(アジア投資開発銀行)がある。一つの見方として世界銀行やアジア開発銀行(ADB)に対抗するために既存の国際組織の外に枠組みをつくったという考えもあり、習近平国家主席が現在の国際制度は中国にとって不利益だと言う考えが根っこにあり、現在の制度では一定以上の影響力しか発揮できないので別の枠組みを作ってしまおうという発想ではないかと考えられている。

米、日が中国の発言力の拡大を妨げようとした動きがあったとも言われていて、中国の考えが不当とは言い切れないところもある。
TPPではないTPP(TPPに較べもう少し緩い経済圏。日本は必ずしも反対ではない)を作る動きもしている。更に、CICAは中国が推し進めているアジア信頼醸成措置会議で安全保障のための会議である。

8.米中合意

2014年、米中が温暖化ガス削減で合意した。初めて数字を出して約束した画期的合意であると言われている。これが昨年12月の「パリ協定」(国際気候変動枠組み条約会議で全ての国が温暖化対策に取り組む史上初のルールを設けた協定)に繋がった。
対立するところもあるが、米中間は、重大な軍事行動の相互通告や海と空における遭遇の安全行動規範覚書を交わしている。日中間よりも協力が進んでいる。

9.戦争のしくみ、平和のしくみ

戦争は結果について意見が合わない時に起きると言われている。戦争の見通しに関する誤認、例えば両方が勝つと思った時に戦争は起きる。歴史を紐解けば、それが多い。

もう一つは「短期楽勝」の誘惑だ。短期でしかも楽勝だと思う時に戦争の危険性が高まると考えられる。第一次世界大戦がそうだった。実際には長い戦争になった。2003年の3月にアメリカがしかけたイラク戦争もそうだった。ブッシュ大統領は2か月後の5月には戦闘勝利宣言をしているが、今でもイラクは安定していない。こんなに長く続く戦争だと分かっていれば戦争を始めたか疑問だ。

短期楽勝より悪いのは「早い者勝ちの焦り」だ。「タイムセールの危険」や「限定何食の危険」と説明している。タイムセールというのは、スーパーで5時から30分だけ安くなりますよ、数が限定されているから、みなさん早くして下さいというものだ。急げば自分の物になるが、うかうかしていると他の人が取ってしまうかもしれないので二度と自分の物にならないということだ。「機会の窓」という言い方もする。今は窓が開いていて入ることができるが、もうすぐ閉じてしまうと考え、機会を失われてしまうと考えれば開戦への焦りが生じる。

未来が見える水晶玉の中を覗いて、どういう絵が映し出されているかによって戦争の危険が増すか減るかが決まる。正しい水晶玉を作ることによって、戦争が防げるのではないかという考え方だ。


10.抑止を成功させるには
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どうやって水晶玉を曇らせないで見せられるかによって抑止が成功するかどうかが決まる。そもそも、抑止とは攻撃しょうという気持ちを思いとどまらせることだ。「撃つなら撃ってみろ、倍にして返してやるぞ」と言って相手を思いとどまらせることだ。これはやり返すことによって止めさせることだ。特に核兵器はそうだ。これを専門用語では、「懲罰的抑止」という。もうひとつは「撃つなら撃ってみろ、固い鎧をきているから成功しないぞ」と見せることだ。こちらは、「拒否的抑止」と言う。

抑止が成功するためには三つの条件がある。

一つは攻撃された時に反撃する能力があって、使う意図・覚悟があること。安倍内閣が集団的自衛権を解禁することによってアメリカと一緒に戦うことを可能にし、軍事同盟を高め、軍事能力も高め、場合によって戦うという意図を示すのはこれに当てはまる。政府にはこの一つ目の条件を指して抑止だと言う人が多い。しかし、抑止論の研究では、抑止の成功にとっては、実は、第二、第三の条件が整うことが重要だと考えられている。

二番目の条件は反撃する能力と意図があることを相手に正しく伝えることができることだ。これには正しいシグナルを出せること、通信手段があること、危機の最中でも意思の疎通が図れることが重要だ。言葉に信憑性があることが必要で、そのためには一定の信頼関係が存在していないといけない。

三番目は状況について共通認識があること。この橋を越えれば、確実に反撃されるけど、橋を越えなければ相手から攻撃されることはないという了解だ。橋を越えなくてもどのみち攻撃されてしまうのであれば、先に攻撃したほうがましだという判断になり抑止は破綻する。

しかし、日本のように法律を変えて何時どうしょうとしているのか分からない状況は抑止にとって良い状況ではない。今、日中間で危機の時の連絡手段の話し合いはされているが合意は出来ていない。今のままでは抑止力は必ずしも増さない。危機管理メカニズムについてもまだやることが残されている。

戦争は不可避だと思わせないことが大事だと思う。二つの水晶玉。一つの水晶玉は悲惨な絵が、もう一つは戦争をしなければこんな良い世界が待っているという水晶玉をお互いに見れば、戦争は不可避でないと思えるようになるのではないか。そして、戦争は割に合わないと思うのではないか。

11.戦争を防ぐには

平和時でも米・日・韓・豪と一緒に協力する仕組みが考えられている。以前のように大きな戦争はあまり起こらないだろう。領土を奪い合う時代ではないし、経済的相互依存もあり、大規模な戦争が急には起きると考えられないが、小規模戦争は起きることが考えられる。その小規模な紛争に備えて、速やかに、切れ目なく対応しょうというのが眼目だ。

今回の法律で、現場の判断で動けるように変え、ぐずぐずして事態が動く危険はなくなったが、逆に紛争が激化する危険は増した。紛争の予防には対応がのろい方が良い面もある。現場の判断で撃ち返せる事は、現場の判断で事態がエスカレートする可能性があるということだ。

言ってみれば戦争の判断を現場がすることになりこれでいいのか、のろい方が良いのか考えないといけない。私は戦争開始の判断は、現場の自衛官ではなく、国民の代表である政治家が決めるべきだと思う。

12.南シナ海の攻防
5月会報南沙諸島2

安全保障法制ができてアメリカが日本に期待している地域でもある。しかし、何を巡って争っているのか。

一つには領土(領海)、南シナ海を中国は九段線で囲んだところを自分たちの海だと主張している。ここは中東からの石油などが通る重要な国際的海洋通路である。中国は永暑礁に滑走路を作っている。各国が作った滑走路を比較すると中国のものがはるかに大きく、それが問題となっている。

二つ目に争っているのは海洋の安全・自由航行だ。アメリカはこれを守ることはアメリカの国益だと言っている。(アメリカはそれぞれの島が、領土がどの国に帰属するかということには特定の立場を取らない政策を取っている)アメリカは七つの海を守る能力を持っている。

これは、一方ではどの国にも開かれた海を保障することを意味し、他方ではアメリカが望めば他の国を締め出すこともできることを意味する。アメリカは自由貿易主義を取っていて、それが自分の利益になると信じているし、そうあるべきだと考えている。そのため自由な海を担保している。

各国は、アメリカが航行の自由を保障してくれることによって恩恵をうけているので、アメリカに依存している。各国が依存しているから、アメリカは、トップリーダーとして君臨できている。覇権を握っている力の源泉が七つの海を支配しているということになる。アメリカではこれを公共空間の支配と言っている。軍事的に見ると、公共空間を支配していることによって、アメリカは世界各地に軍事介入することができる。

これに揺らぎがあるというのが最近起こっていることの一つだ。アメリカは中国が接近阻止・領域阻止戦略を実行しようとしていると考えている。中国は自分の近くにはアメリカに入ってほしくないと思っている。これには台湾の独立阻止の狙いもある。

規範をめぐる争いだという見方もある。国際法に則って話し合いで解決すべきだというのが現在の国際社会の規範であり、軍事力を使って、現状を変えることは許されないという主張だ。海は人類を繋ぐものだ。そこに線を引いて自分のものにする動きは許されないということが2年ぐらい前から中国以外の国から言われるようになった。海のルールとして国連海洋法条約があるが、中国の行動はそれに反しているとアメリカは主張している。(ただし、アメリカ自身は国際海洋法条約を批准していない)

南シナ海で争われているものは何なのか? 単なる領土と領海か? 埋め立て工事の是非か? あるいは、台湾への攻撃か? または、日本(尖閣諸島)への攻撃か? 米中のアジアにおける影響力の争いなのか?米国が主導する国際秩序への挑戦か? 国際規範への挑戦か? 守るべき一線を何処に引くのかが問題だ。

13.平和のための戦争論
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「リベラル抑止」は私の造語だが、軍事力による抑止と相互依存を組み合わせる戦略を指している。硬軟両方の手段で平和を守ることだ。リベラル抑止は経済的なことや文化交流などあらゆるものを取り込み、両国が共有するプラスの部分を大きくする。また、国際組織に取り込むことにより国際法や規範を守るように促し、戦争が割に合わない世界をつくることが大事だ。

一方で、軍事力による抑止、すなわち破壊する能力もゼロにはできない。理想の世界では、軍事力は必要がないが、残念ながら、人類はまだそこには至っていない。そのような不完全な世界で戦争を防いでいくためには、一線を明確に引く事が重要だ。ここは絶対に譲れない、ここを害されたら戦争あるいは反撃すると言って相手を思いとどませるこということもある。ただし、一線を越えてなければ、決して手を出してはならず、また信頼を醸成することが大切だ。

どんな優秀な学生でも、試験で落第するという制度がないと勉強しない。人間のさがとしてプラスとマイナスの両方で戦争を抑止しルールに従わせる。別の言い方をすれば、ムチとアメでルールに従わせることだ。また、ルールに関するコンセンサスを作って議論をしていくことも大事だ。

攻撃を辞さないほど大事なものは何か? 相手を殺してまで守らないといけない大事なものは何かを考えることが必要である。今までは日本が攻撃された時だけを考えればよかったが、これからは幅が広がるので平和なときから議論をしていく必要がある。
譲歩は必ずしも損ではなく得だと思わせる仕組みをどうやって作るかも大事だ。

さらに、プラスとマイナスの両方を使って、失うものが大きいという状況を軍事的な破壊以外でつくることが大事だ。譲歩した方が得だと思わせる仕組み作りも必要だろう。ルールに則った行動を促すためには、例えばFTAのようなものを二国間、三国間、多国間、そして国際規模のものを作り、何重にも網をかけルールにしたがうことがプラスで違反することがマイナスだという仕組みを作ることが大事だ。また、制度化することも大事だ。

14.私達に出来ること

何が大事か、何を守るか、どういう世界を作りたいのかを日頃から色々な人と話し、考えていくことが大事だ。
民主主義国は抑止にとって強みがあると考えられている。それは中での議論が外から見え易くなるからだ。明確なシグナルを出すことができるので、疑心暗鬼が減り、安全保障のジレンマを減らすことができるからだ。自由に議論できるということは、透明性を高めるという効果があるだけではない。議論によって、すぐ決められないということは、一見弱点のようだが、時間が取られることで外交交渉の時間ができ、紛争激化を加速化させない効果もある。

私は安全保障の分野に専門家はいないと思っている。国民一人ひとりがどう考えるかということが何よりも大事だし、決めるのは私達だと思っている。これからも皆さんと考え、意見交換ができることを願っている。

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【質疑応答】

Q1:リベラル抑止を機能させるためには言論の自由が重要だと思う。言論をチエックしょうと思う今のありかたをどう思われるか? それから先生の話に国連は出ていなかったが、国連はどう組み込まれるのか?

A1:多くの人間に情報が共有されているのが民主主義だ。決めるのには時間がかかるが結果的により良い結果になるという仕組みとして民主主義制度はあると思っている。賢い一人のリーダーが決めるよりいい。

情報を開示すると変な反対を入れられる、やるべきことは明らかなので国民に情報を開示せずに進めようという考え方は私は間違いだと思う。制限した方が効率がよいという考え方に私は与しない。自由に発言できることはとても大事なことだ。世界全体がその方向になるべきだと思う。

ただし、実際に危機が起こった時は、全ての情報を開示できないこともあるだろう。私はその場合には、外に情報を出さないという条件で国会に秘密会議を設けて、国民の代表である与野党の国会議員が議論する必要があると思う。
  
 米国は時には国連を使い、ある時は無視してやってきた。米国の力が落ちてくると国連活動が機能停止状態に陥る可能性がある。国連の機能強化はとても大事だ。力で競い合うのではなく、ルールに根ざして行動・規制することも大事だ。
  
 本来、国連決議に基づく平和維持活動への参加は国連加盟国の義務だが、日本は限定的にしか参加して来なかった。国連が今後も機能するために、日本は今まで通り限定的にするのか、それとも、もっと積極的に参加していくのか、あるいは、非軍事的な別の方法で貢献していくのかを議論する必要がある。

Q2:先生は第二次世界大戦をどう評価されているのか? 不可避だったと思っておられるのか?

A2:短期楽勝という誤認が一部にあった。他方、アメリカ相手に戦争をしても勝てないという分析が
1941年以前に出されていたにもかかわらず、戦争を決定する指導者に伝わらなかったという問題がある。さらに、現場の判断が優先され政府は後追い承認をしていたこともある。我々がその当時生きていたら何か違うことができたか、何ができたかを考え、平和を守る仕組みを考えることが重要だ。
平和のための制度はどうあるべきか、水晶玉を曇らせないためにはどうすればいいかを考えるべきだと思う。(文責:中村俊雄)


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