学習会の要旨

◎ 1月24日(土)学習会の要旨   

                           
 テーマ:「戦後日本経済の歩みと経済小説」                                         
 講 師:堺 憲一 先生(東京経済大学学長)                                       
 出席者:197名(会員:男性 144名、女性 49名、非会員:男性4名)

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【講演要旨】  
                                                   
 私の専門はイタリア経済史なのですが、今日は趣味として読み始めた「経済小説の世界」と「戦後の日本経済の歩み」を二つの柱としてお話します。戦後の70年間は、人類史上から見ても大きな激動の時代です。この時代を生き抜いてきた皆さんと一緒に、戦後を振り返ってみることも今日のテーマの一つです。

1、経済小説とは
 経済小説というと何か難しく思われがちですが、「世の中と仕事とお金と暮らし」にかかわる小説の総称と考えてください。

2、経済小説の面白さ
 何と言っても「一粒で三度おいしい」が、経済小説の魅力です。「小説ならではのワクワクドキドキするエンタテインメント性」「ビジネス書をしのぐリアリティたっぷりの情報量」「働き方や生き方を一変させる自己啓発書の気づき」などが醍醐味です。

3、経済小説の楽しみ方 
 ①あくまでもフィクションですが、著者は綿密な取材や資料の分析に基づいて作品を仕上げており、時代の変遷、過去の事件、出来事の隠された面や一般的な評価とは違う企業の内実を知ることができます。
 ②さまざまな世代・立場の人の生き方・働き方や企業・組織の活性化の対処法を知ることができます。

4、経済小説の作家
第1世代=パイオニア時代:1960年前後の高度成長期に登場 ⇒ 梶山季之、清水一行、城山三郎、
       山崎豊子、邦光史郎などが代表的な作家
       企業の世界はまだよく分からない時代。企業の実態を知らせる役割を果たした。
       人々は総会屋や産業スパイの存在を初めて知ることになった。
第2世代=ジャンルが確立:70年代後半~80年頃 ⇒ 安土敏、大下英治、堺屋太一、高杉良、本所次郎 
       高杉良が代表格。普通の本では分からない企業人のホンネが書かれている。   
第3世代=よりリアルな内容を追求し始めた世代:80年代後半のバブル時代 ⇒ 江波戸哲夫、杉田望
       高任和夫、水沢渓 
第4世代=経済のグローバル化と「失われた十年」を投影した世代:90年代後半 ⇒ 池井戸潤、牛島信、
       江上剛、黒木亮、幸田真音、真山仁
ニュートレンド世代=2000年以降 ⇒ 有川浩、石田衣良、荻原浩、垣根涼介、楡周平ほかのジャンルの
       作家も経済小説に参入。経済小説の世界が大きく拡大した。

5、経済小説の新潮流 
 ①90年代半ばまでの経済小説の舞台は企業、作家も主人公も男性、中高年の愛読書でしたが、新しい潮流は企業+国・地方自治体、個人が舞台で女性の作家やヒロインも登場し、幅広い年齢層が対象となっています。
 ②90年代以降は低成長が当たり前、成熟化してモデルも見つからず、先が読めない時代になりました。 求められることは「熾烈な競争に立ち向かうこと」「ビジョン、創意工夫」「生きがい探し」などですが、 「豊かな社会」に生まれた今の若い人たちには、常に多くの選択肢があり過ぎます。腹いっぱい食べる ためにガムシャラに働けば良かった時代の人に比べると、「シンドイ時代」を過ごしているのです。若い人には、歴史というフィルターを通して現在を見ることにより、より精神的に強くなってほしいと思うのです。人生で選べる自由が多いということは大変ありがたいことだということを学んでほしいのです。

6、戦後の時代を六つに区分すると
 ①戦後復興期(1945~55年)、②高度成長期(1955~73年)、③安定成長期(1973~86年)、④バブル期(1986~91年)、⑤バブル崩壊後の不況期(1991~2002年)、⑥現在(2002~14年)となります。

7、戦後復興期(1945~55年)の話
 闇市、駄菓子屋、紙芝居の時代です。財閥解体や農地改革などの戦後改革により大資産家・支配階級が一掃されました。その結果、「一億総中産階級」の社会となりました。日本はまだ貧しく、モノ不足で中古品をよく使っていた時代でもあります。
(この時代のオススメ作品)
本所次郎「小説日銀監理」→この作品は、倒産の危機に瀕した「トヨタ」を救った秘められた事情を書いている。
城山三郎「メイド・イン・ジャパン」→当時の日本製品は粗悪品の代名詞であった。
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8、高度成長期(1955~73年)の話
 テレビ、マイカー、カップメン、団地の時代です。経済大国となった日本では農村から大都市への大量の人口移動が起こります。大量生産方式が普及すると大量販売方式への模索が始まり「スーパーマーケット」が登場、流通革命が始まります。オリンピックと共に東京にはホテルが沢山できるのですが、期待ほどは利用されませんでした。苦心の結果、現在のようにパーティーや祝い事、飲食などに重きを置いたホテル経営という日本独自のスタイルが定着していきます。「モーレツ社員」や「会社人間」を生み出すのですが、これは日本では働けば給料が上がるというシステムになっていたためなのです。欧米では儲けは株主への還元が重視されるので、そうはなりません。
(この時代のオススメ作品)
梶山季之「黒の試走車」→産業スパイの話。まだ知的所有権などは不明確な時代であった。
城山三郎「価格破壊」→スーパーの設立にはこれほどまでの困難があった。
高杉良「虚構の城」→出光興産の大家族主義でエリートエンジニアがたどる悲劇。
深田祐介「神鷲(ガルーダ)商人」→インドネシア賠償貿易での「貢物」とは。
山崎豊子「不毛地帯」→伊藤忠の瀬島龍三氏がモデルだが、壱岐正は東経大の元教授の名前に由来。
清水一行「小説兜町(しま)」→株屋・相場師から証券会社、証券マンの世界へ。

小説(価格破壊)


9、安定成長期(1973~86年)の話
  コンビニ、ハイテク製品、カラオケの時代です。オイルショックにより不況が世界的な現象となるのですが、エレクトロニク スと自動車産業で、日本の国際的な競争力はむしろ大きく向上しました。「メイド・イン・ジャパン」が世界中に広がりまし た。製造業が発達した結果、日米貿易摩擦も引き起こされました。カラオケがブームになり、東京ディズニーランドがオープンし、ファミコンが流行。子供たちが「アウトドア」から「インドア」に変わりました。
(この時代のオススメ作品)
堺屋太一「油断」→200日間、石油の輸入が7割カットされると、どうなるか。
広瀬仁紀「談合」→政治家の謀略に比べると、談合の駆け引きなどはまだかわいい。
本所次郎「夢を喰らう」→オリエンタルランドの主目的は浦安造成地区の土地の錬金術にあった。

10、バブル期(1986~91年)の話
 個人も企業も株、土地、絵画などの投資に走りました。冷戦が終わり核戦争の危機は遠のいたのですが、市場経済人口が急増し、世界経済のグローバル化が進行しました。IT革命によりアメリカ経済の独り勝ちが進みました。
(この時代のオススメ作品)
清水一行「女帝」→料亭の女将で謎の女相場師 尾上縫の実録話
石川好「錬金」→バブルもバブル崩壊もアメリカが仕組んだものというお話。

11、バブル崩壊後の不況期(1991~2002年)の話
 パソコン、携帯電話、インターネットの時代です。従来の日本の論理やシステムではやっていけないグローバルな時代に突入。膨大な不良資産を抱え、新しいリーディング産業も未成熟、金融政策の効果も発揮できずに長く不況が続きます。円高、貿易摩擦で、産業の空洞化が進みます。世界的にもモノつくりの分業化が進みます。リストラの進行に伴う、終身雇用制、年功賃金が動揺します。ASEAN諸国、BRICsなど新興国が台頭。21世紀は前半が中国、後半はインドが制すると言われております。
(この時代のオススメ作品)
大下英治「小説山一證券崩壊」→ぬるま湯の証券会社となった山一の行く末。
幸田真音「小説ヘッジファンド」→コンピュータでデリバティブを駆使する金融工学の話。

12、 日本経済の現状
 02~07年は景気回復基調にありましたが、08年9月のリーマンショックで世界同時不況に突入。バブル崩壊以降は低成長が長く続き、「失われた20年」とも言われています。現在の日本は、将来に向けての新しいシステムを構築して、一層の飛躍をするのか(インフラ輸出・環境・エネルギー産業・医療・介護サービス・ロボットなどが戦略5分野とされている)、それとも、問題を先送りし続けて、ズルズルと下降の道を選ぶのかの岐路に立っています。現状を打破・改革するには、①問題点を明らかにして、組織を活性化させ改良を図る。つまり現状の制度やシステムを変えないで行う方法。②今までの制度やシステムを「逆転の発想」で全く変えてしまう方法。③コラボレーション、つまり一つの組織では解決しない問題を解決させる方法の三つが考えられます。
                                小説(プラチナタウン)

(この時代のオススメ作品)
楡周平「プラチナタウン」→高齢化・過疎化に悩む田舎町の再生劇は「逆転の発想」で。
黒野伸一「限界集落株式会社」→地方活性化のカギは? 1月31日スタートのNHKドラマの原作。
黒野伸一「脱・限界集落株式会社」→駅前シャッター通り商店街を保存するか再開発するか。
池井戸潤「銀翼のイカロス」→半澤直樹シリーズ第四弾の最新作で、一番面白い。

13、東京経済大学と経済小説
 東京経済大学の前身である大倉高等商業学校の卒業生がモデルの名作としては、次の二作があります。
一人は佐藤和三郎。獅子文六の「大番」に登場する主人公・赤羽丑之助(ギューちゃん)のモデル。もう一人は、斎藤博司。清水一行「小説兜町(しま)」に出てくる「最後の相場師」と称された主人公・山鹿悌司のモデル。ただし、当大学の卒業生は株の相場師ばかりと誤解されませんように。森ビルの創業者である森泰吉郎氏、セブンイレブン・ジャパン創業者の一人である清水秀雄氏、お酒の久保田で有名な朝日酒造の前社長など、沢山の経済人がおられます。

おわりに 
 本日は皆さんにとって「経済小説とのよき出会いの場」となれば、また経済小説を通して、「人生を楽しんでいただける機会」になればと思い、お話をさせていただきました。最後に私の好きな言葉をお贈りし終わりとします。

  「事業というものは皆、夢で始まり、情熱で続き、義務感で完成するもんや!(堺屋太一)」


「質疑応答」
Q:経済小説には政治家も関係していると思う。政治・経済小説というようには言わないのか。
A:政治と経済は密接に関わっている。書店によっては政治・経済小説と分類している所もある。私自身は、政治と分けた方が物事の本質がよく分かると考える。

Q:若者の意識の変化で「七・五・三」の話があったが、何故そのようになったのか教えてほしい
A:私は昭和23年生まれで皆さんと同じように「貧しい時代」を過ごしてきた。この時代の人は我慢することを知っている。いまの若い人は、仕事自体が楽しいとか自分を納得させられる理由が見つからないと、仕事をやるうえでのモチベーションを維持できない。「豊かな時代」では、理由が必ず必要となる。

Q:日本経済の現状で問題を先送りしてズルズルと下降していることについてのコメントをほしい。
A:意識して問題を先送りしているのではなく、何をやっていいか分からない、どうすればいいか分からないという側面も強い。もはや成長のためのモデルがないので、こう行けばいいということが分からない状況だと思う。

Q:黒田日銀総裁がやっている国債の買い入れは大丈夫か。問題の先送りではないのか?
A:確かに分かりにくい話である。金利やマクロ経済は残念ながら私の専門ではないので、正確な回答はできない。 
                                      (文責:増田保武)
                             小説

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