学習会要旨

学習会要旨(1)



◎7月11日(土) 学習会の要旨 
藤田先生4

 日 時:7月11日(土) 13:30~15:30                             
 場 所:東京経済大学 2号館 B301教室  
 テーマ:「3.11東日本大震災の教訓~日本のエネルギー政策
     を考える 第二弾」                                          
 講 師:藤田 和男先生
    (東京大学名誉教授、芝浦工業大学MOT大学院(元)教授、
     Geo3 REScue Forum代表
 出席者:167名(会員:男性123名、女性:38名、非会員:男性4名、女性2名)

【講演要旨】

3年前の2012年の3月、同じテーマで皆さんにお話ししましたが、今日はその後の変化も折り込んで新しい視点でお話しましょう。
2011年の3月11日の東日本大震災は想定外の大津波が福島第一原子力発電所を襲い、未曾有の放射能災害が起きました。あれから丸4年経った現在でも、その原発の廃炉や放射能汚染事故の終息の明確な見通しが立っていない状況です。原子力の安全神話がもろくも崩壊したポストフクシマの低炭素社会の構築を目指すわが国は、いかにして産業・社会の動力源であるエネルギーの安定供給を確保するのか喫緊の命題を皆さんと一緒に考えてみましょう。

1.石油の輸入量と価格の推移(1)わが国の原油の1日当たりの輸入量は1973年(第1次オイルショック):498万バレル(1バレル=159リットル)、1995年:458万バレル、2010年:369万バレル、2013年:362万バレルで震災後は増えていません。増えたのは液化天然ガスで震災後25%も増えました。(後述)
(2) 原油の価格はこの40年間で55倍(1972年1.96$/b⇒2012年2月最高値109.77$/b)となり、為替レートを換算($=360円⇒79円)すると11.8倍となります。
(3)21世紀に入り原油価格の乱高下が起きていますが、これは市場の余剰資金が原油の国際商品先物市場に流入したためです。原油価格の決定要因には本来的な需給関係から生じる価格変動(ファンダメンタル)と産油地等の政情やテロ紛争など先物市場から決まる要因(プレミアム)を加味して決まります。
                                    石油1

2.東日本大震災がもたらしたもの
2004年以来の原油価格の高騰により、エネルギー高価格時代の到来で、エネルギー供給側の選択肢が多様化している折に「2011年3.11東日本大震災&原発事故」が起きました。
 ⇒「日本のエネルギー戦略の抜本的再構築」と「需要者側である日本が省エネ・省資源・環境対策の
   技術革新(グリーン・イノベーション)を行うチャンス」が訪れたのです。

(1)第1次エネルギー国内総供給量と構成比(%)の変化
藤田先生1-1
  注:再生可能エネルギーには太陽光、風力、バイオマスの他廃棄物や廃材発電等を含む

 上記比率は総供給量であり、これから輸出量と備蓄在庫変動分を差し引くと国内供給量となります。
さらに第1次エネルギーをエネルギー変換して「最終エネルギー」にする際に約33.4%が変換ロスとして失います。ですからロスを除いた実際の「最終消費エネルギー」は66%です。実はこの変換ロスは化石燃料を変換する際に起こるロスでして、このロスを如何に少なくするかも大事な省エネ技術です。

(2)発電のためのエネルギー源
 2013年度の最終エネルギー消費量3.34億toeの内、発電に使われているエネルギーは26.4%を占めます。しかし大きなマーケットである電力消費量は第1次エネルギー総供給量の16.8%に過ぎないのです。
下の表はわが国の総発電量の発電源構成について震災前後で比較しました。
 藤田先生2-2
福島原発の事故により、発電の軸になっていた原子力が失われ、化石燃料の大幅な増加をもたらし、CO2の増加にもつながったことが確認されます。

(3)原子力エネルギーをどう見るか
げんしりょく2

 大震災時の民主党政権は2030年に「原発ゼロ」を宣言し、核廃棄物の処理問題もあり国民の何割かは「原発ゼロ」を妄信しましたが、もう一度原発のメリットとデメリットを冷静に考えるべきでしょう。
<メリット>  ・廃炉にかかる処理費用は別にして、発電コストが安価であることは明らか。
        ・ウラン核燃料は既に十分確保され、安定供給保証。国内エネルギーとも言える。
        ・徹底的な原子炉の排熱有効利用の余地がある。
         ⇒現状は海の温度上昇を招き、時に魚を殺している。
        ・日本の原発建設技術の向上と保守技術は、将来の技術輸出となりうる価値がある。
        ・発電量に対するCO2 排出量が化石燃料に比べて極めて低い。
<デメリット> ・放射能廃棄物処理の厳しい国内の現状と課題
        ・地震国である日本で、今後の事故時に放射能汚染の国民の不安が増幅!
         ⇒高レベル放射性廃棄物(使用済み核燃料から再利用するウランやプルトニュームを抽
         出したもの)は、今後国主導で処分を行う基本方針が閣議決定されたが、具体案は決
         まっていない。

3.大震災が引き起こした教訓(1)地球温暖化問題
IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)によれば1870年(産業革命時代)の地球温暖化ガス(CO2やメタンガスなど)の濃度は280PPMだったが、今年3月の世界平均(40箇所で測定)のCO2濃度は400PPMに達していると(NOAA)が今年の5月に報告、警鐘を鳴らした。450PPMを超えると北極の氷がすべて解けるとも言われ危機的な状況にあるようです。
今年12月パリで開かれるCOP21では2020年以降の抜本的温暖化対策の国際的枠組みの合意が喫緊の国際問題となっています。

(2)世界の国別1次エネルギー消費量(2013年度) 世界全体の総消費量:127.3億toe

                          藤田先生3-3
 ①上位10カ国で65.6%を占めており、特にトップ5カ国の取組み姿勢が重大事となりました。
 ②エネルギーの内訳は紙面の都合上省略しますが
・石炭への依存度の高いのは中国(67.5%)、インド(54.5%)あり、浄化技術等が必須になる。
・再生エネルギーの比率の高いのはドイツ(9.14%)、ブラジル(4.65%)、で日本は6位で2%。

(3)日本のエネルギー基本計画の取組み
 低炭素社会を築くためのエネルギーの選択(Best Mix)が注目されるようになりました。
 日本で電力を発電する場合、1kwh発電するのに石炭火力ではCO2を975g排出するのに対し、石油火力742g、LNG608~519gを発生させ、太陽光53g等々で原子力は25~22gです。CO2排出量がかくも少ない原発の廃止は大きな痛手となるのです。だから代替の火力発電ではCO2排出量が比較的少ない天然ガスにシフトせざるを得ません。
経産省の最終計画案では2030年の電源構成で原発比率(20~22%)と再生エネルギー(22~24%)に構成比を引き上げ、温暖化ガスの排出量を2013年の13.95億トンから2030年に10.42億トンへ26%の削減を図る野心的な目標を年末のパリ会議で提案する予定です。

(4)化石燃料の輸入量のアップと支払金額の増加
 大震災以降 円高・原油高から 輸入量の増加・円安 (円安はアベノミクス)による支払い額の増加がひいては国際収支の悪化に繋がりました。
 ①原油は2005年以降上昇に転じ、2014年迄は100ドル/bがほぼ定着しつつありました。震災前の
2010年度は円高・原油高での中で国際収支の経常収支は18兆円、貿易収支は8兆円の黒字でした。
大震災直後の2011年度から貿易収支は赤字となり、円安の進行で経常収支も減り続け、13年度には1.47兆円まで落ち込みました。円安と化石燃料の輸入量の増加で13年度は11兆円の貿易赤字でしたが、14年度は年央からの原油価急落のお陰で赤字幅が4.45兆円減少し、6.57兆円にV字回復しました。
②これに対し天然ガスの価格はアメリカ、イギリスでは共に安定していますが、日本の輸入価格は安   
定せず、かつ高価格で推移しているのは日本の輸入価格の契約が石油価格スライドだからです。
 原発停止の影響を見ると、日本のLNGの輸入量を比較すると2010年度の7,056万トンに対し13年度は8,773万トンへ約1,700万トン(25%)も輸入量が増加しました。一方、平均CIF価格は2010年49,720円/トン(約 11.5$/MMBtu程度@88.81円/ドル)から 2013年には76,837円/トン
(約16$/MMBtu程度@98.65円/ドル)に54.5%値上がりしました。すなわち数量増しと値上がりのダブルパンチでわが国の年間LNG輸入金額が2010年の3兆4718億円から2013年には7兆568億円と2.0倍に急増したわけです。(増加額は約3兆5,850億円/3年間)
                )エネルギー)(天然ガス

4.ポスト福島の教訓:「天然ガスシフトの時流を拓く」ことと「グリーンイノベーション戦略」
日本のエネルギー消費量の構成比を(1次エネルギー消費シェアで)2013年の世界レベルに比較しますと石油44.1%(世界平均33.9%)、天然ガス22.2%(同23.7%)、原子力0.9%(同4.4%)で明らかに石油偏重です。CO2の排出量比で見ても石炭100とした場合、石油76、LPG71、LNG62~53とLNGが有利なのです。更に埋蔵量で見ても天然ガスはアジア・オセアニア地域の埋蔵量が豊富です。
原子力に対する世論の壁を乗り越える努力をする一方、天然ガスの比率を25%に引上げ、石油依存を35%に下げ、長期的視点で自然エネルギー・新エネルギーの開発に進むべきでしょう。

(1)天然ガスの世界の生産量は3.37兆㎥で、産出国で消費されるのが69.3%、商業生産量は30.7%に過ぎません。この内68.6%はパイプラインによる販売で、LNGによるタンカー貿易は31.4%、即ちLNGによる消費は世界の天然ガス消費量の9.7%に過ぎないシェアなのです。それなのになぜアジアにパイプラインが建設されなかったのでしょうか? エネルギー収支が悪い、高価なLNGによる天然ガス輸送を強いられたわが国はまんまと欧米の策略にはまったのではないかと私は思っておりました。日本はもっと早い段階からパイプラインによる輸入を考えるべきであったのです。

(2)グリーンイノベーションの推進として
  ①エネルギー供給サイドの低炭素化の推進:化石燃料のクリーン化や原子力発電の安全を旨とした
   技術力向上。将来的にはレアーアースに付帯するトリウムを燃料とする溶融塩炉原発の活用など
   を含め。
    ⇒一つの基地で化石燃料(石炭、石油、天然ガス)をミックスした「次世代型化石燃料総合ガス化
   転換ハブ構想」を提案したい。
  ②省エネルギー技術の向上とスマート・エネルギーのシステム化の推進を更に進める。
  ③長期的高度技術研究計画の下に再生可能エネルギーの活用:水力、太陽光や風力、地熱等に加え
   相対的にCO2の発生が帳消しとなるバイオマス燃料による発電などもあります。
   バイオマスは現代において地球上で植物が光合成で大気中のCO2を固定し成長した燃料であり、
   これに着火し空気中のO2が反応し燃焼することによりエネルギーを利用しCO2を排出していま
   す。(これを“カーボンニュートラル”と言う)
  ④循環型・低炭素社会構築のためのシステム整備:環境先進モデル都市の設計・建設や
   国際排出権取引(ET)やクリーン開発メカニズム(CDM)、共同実施(JI)の活用整備、そして
   地政学(Geopolitics)に基づく国際援助(ODA)やASEANやTPP国際協調の推進 が必要です

5.私が期待するエネルギーの将来像  今迄述べてきましたが2030年のエネルギーのベストミックスを纏めると次の様に考えます。
藤田先生4-4
このベストミックスを実現するために2030年までにわれわれがなすべき技術研究領域は
     ①化石燃料の安定供給とクリーン化・総合的高度利用
     ②天然ガスの利活用による交通運輸部門の燃料多様化…ガソリン・軽油に偏重しない。
     ③原子力利用の継続とその大前提となる安全・安心の確保
      ⇒核廃棄物等に対する研究を進める一方、他国が原子力発電を継続しているので、技術の蓄積
      を温存するのみならず、技術輸出の芽を残す必要がある。
     ④情報技術の更なる進化により、省エネの促進とグリーンイノベーション。
     ⑤再生可能エネルギーの技術革新とコストの更なる低減。
   
 あっと言う間に2時間過ぎてしまいました。私の話はここまでとしますが、更にご興味のある方は配布の資料をご覧下さい。字が細かくて読み難いと思いますが、虫眼鏡がお役に立つと思います。(笑い)
藤田先生風景2

<質疑応答=要点のみ>
Q.メタンハイドレード(MH)の状況はその後どうなっているか。

A.本件にはアラビア石油に勤務時代から通算20年以上関わり、国のMH評価検討会の座長も務めて来たので経過はよく承知しています。お尋ねされた様なアメリカの圧力で開発作業が遅れている事はありません。しかし水深1,000m、100気圧の海底を掘削・採取するのはたいへん困難な作業であり、多額の操業・設備資金も必要です。
わが国は「ちきゅう」と呼ばれる深海の掘削船(Drill ship)は所有していますが、海底掘削や海底坑井仕上げに使うサービス海底専用船(ROV)を持っていないので、研究の場合はアメリカの船を借り、試掘費用もかなりかかります。サンプルの分析や資源量評価、シミュレーションモデルなど技術的には日本は先端を走っていますが、生産テスト操業で解決すべき課題も多く、なかなか難しいです。今後はアメリカ、カナダ等との国際協力が必要と思います。

Q.原子力発電についてどの様に考えられるか。又、核廃棄物の処理についてどう考えるか

A.福島原発で発生した放射能事故は深刻であり、今後何をするにもこれを教訓として周到な準備で行わなければいけない。日本の原子力発電は発電エネルギーの約30%分を担っていたことを忘れてはならない。再生可能エネルギーがクリーンエネルギーであることは誰でもわかっているが、原発がもたらした大量の電力をどうやって賄えるのか? 霞を食べて人間は生きられない。太陽と北風のイソップ物語は現代には無益です。      
世界的にみると原子力発電はフランス、アメリカ、ロシアを追い中国、インド、韓国などでも増えていく現実を前に、今迄培ってきたわが国の原発の技術的な蓄積と操業経験をスパッと放り投げて良いものだろうかと思い2030年で一次エネルギー国内総供給量の5%の数値を上げた。発電構成ならば原発は10%程度となります。

Q.水素は無限にあり、エネルギー以外にも活用価値がある様に聞いているが、利用できないか。

A.既に燃料電池として活用され始めています。しかし物事はステップ・バイ・ステップが大事です。すぐに目新しいものに飛びつくのでなく、例えば現在進めている太陽光の利用を更にレベルアップする方が大事です。又、宇宙発電や巨大レンズの集光熱利用など太陽光の熱利用の模索も必要でしょう。                 
(文責:小笠原正文)
メニュー
アクセスカウンター
リンク